2章 1話 マゼンタの約束1

城の前で各自の役割分担をして、早速大工のアーロンは開発施設用の小屋の建築に取り掛かった。


期限がないので、1分1秒も無駄に出来ないサナ達は

各自の役割分担をして、この建築期間中も最大限活用した。


サナは家に帰るには遠いし、皆の指示をしなければならないので街に残る事になり

住む家は画家志望のミアが余っている部屋を貸してくれる事になった。

裁縫などの作業は各自の家でやってもらい、出来上がるとサナの所まで持って来てもらいチェックする。

郊外に住んでいる人達には、鉱物や植物の採取の材料調達をしてもらう。

そしてユリウスはその材料を使い、城の近くにある自宅で試作を繰り返して居た。



2週間後には小屋が出来上がった。



小屋と呼ぶのは忍びない程立派で、研究機材用のスペースだけではなく、皆で集まって会議が出来るスペースや仮眠室まで用意してくれて

もう普通に民家のレベルだ。

それをあっさりと建ててしまうアーロンは優秀な大工なのだろう。

農場の一角を好きに使われてくれたヒースの太っ腹さにも感謝しなければならない。


ユリウスの科学者時代の伝手で、開発に使えそうな道具は貸してもらえたのですぐにでも開発に移れる環境が整った。


「こんなに早く全ての用意が出来るなんて、正直思っていませんでした」

「君の見立て通り優秀な人が多かったという事だろう」

「そうですよね。皆さんやるべき事を即座に理解してくれて、求めている以上の成果を出してくれます」

「そうだ、君の言っていた【クチベニ】試作品は簡単に出来たぞ」

そう言って、平たい小さな入れ物を手渡した。

中には鮮やかな赤色のクリームが詰まっている。

「……1番凄いのはユリウスさんですね。現物を見た事もないのに私の説明だけで何でも作ってしまう……」

「君の熱の入り過ぎた説明を聞けば嫌でも理解出来る。油分が多く満遍なく綺麗に発色するクリームだろう?」


サナは手の中にある久しぶりの感覚に

前世で、ずっと欲しかった新作のコスメを始めて手にした時の感動がフラッシュバックの様にありありと沸き上がって来た。

この宝物を手にした時の様なわくわくする気持ち。早く使ってみたいと未来にときめく感覚。

それがあるのだから、これは間違いなく【本物の化粧品】なのだとサナは確信した。



「完璧です。これは口紅です」

初めての化粧品は、想像よりもあっさりと仕上がった。



サナは手の中の小さな【口紅】を眺めながら、ある事を閃く

「あ、あのユリウスさんにお願いしたいことがあるんですが__」

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