第9話 あの子は悪くない

「あんた方は、あの子を犯人だと思っているのかい……?」

「どちらにせよ、疑う必要はあります。色々な罪を犯しているようですし」


 テリーヌは警察官の言葉に眉を寄せた。


「悪いことをするような子じゃあないんだよ……! きっと人違いだよ」

「そうでしょうか。『人の土地のものを勝手に片す者を悪者ではない』とおっしゃいますか。お金をもらっていないという証言があるようですが、ここにあるゴミを修理もしていたそうじゃないですか」


 テリーヌは目を瞬かせた。


「それが……? ここをきれいにしただけなのに?」


 すると突然、警察官の表情が冷たいものになる。


「人の土地のものですよ。今はゴミすら持ち帰ることすらしてはいけない決まりになっているんです。それをゴミなどと言って正当化するとは。おかしいです」


 その言い分に、テリーヌは頭に血が上り、とうとうついに怒りに任せて言葉を放った。


「何がおかしいって言うんだい! ここにこんなゴミ山ができちまったお陰で、異臭はするわ、物は風で飛んで来て家が壊されるわで迷惑していたんだ! それを片してくれたのはゼラだ!」

「あの女に頼る前に、行政へ言わなかったのですか?」


 警察官は、気だるさそうに言った。

 それに対し、彼女は毅然きぜんと言い返す。


「言ったさ! でも、何にもしてはくれなかった!」

「何にもだなんて、失礼でしょう。町役場の人に聞いたら、この土地の所有者に片付けるように警告を出したって言ってますよ? そして、今日被害にった業者さんですが、経営責任者に聞いたところ、これから片付ける予定だったそうです。それなのにゼラは片付けてしまったそうで。業者の方々も困っているようでしたよ」

「何だって?」


 そして警察官は、テリーヌに顔を近づけ、こう呟いた。


「それにこの町の皆さんも手を貸していたそうじゃないですか。つまり、皆さん寄ってたかって、ゼラという女に罪をなすり付けていたというだけじゃないですか?」


 その言い方に、テリーヌは思わず警官の胸倉を掴み、怒鳴った。


「何も知らないくせに! なんてことを言うんだい! 何もしなかったあんたたちに言われる筋合いはない!」


 だが、掴んだ手は、わずらわしそうにあっけなく引きはがされ、後ろ手に羽交い締めにされてしまう。


「放せ! 放せ!」

「署まで連行しろ。もしかしたら何か知っているかもしれないぞ」

「ゼラは何もやっていない! あの子は良い子だ!」

「さあ、こっちに来い!」

「良い子なんだ!」

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