第10話 造られた者

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 テリーヌが叫びながら連行されていくのを、白衣の男と女、そして背の小さい少年はゴミ溜めから眺めていた。


「あらあら。ですってよ、所長」


 女性は赤いフレームの眼鏡を、くいっと上げる。

 すると隣に立つ黒縁眼鏡をかけた男が次のように言った。


「まさか、人に好かれるような内面を持っているとは。思いもよらなかった」

「本当に予想外だったんですかぁ? こんな事件になったのは、所長のせいですよ。実験だからって、野放しになんかしちゃって。後片付けをするぼくとミネコさんの身にもなってください」


 少年はしゃがみながら、ため息まじりに言う。


「本当よ」


 ミネコと呼ばれた女はうなずいた。


「はははっ、手厳しいねぇ二人とも。しかし、途中までは順調だったじゃないか」

「まあ、そのようですけどね」

「土地を買って、ゴミを溜める業者が沢山いて、困っている町の人も沢山いる。まぁ、それを解消するために、『ゴミを片付ける』ということだけを懸命にするアンドロイドを造ってみたけどダメだったかな」

「正確には、培養人間ばいようにんげんですけどね」


 ミネコが冷ややかに訂正する。


「全身ロボットにしちゃうと、どうしても重量がねぇ……。それに飲み食いも出来ないし。周囲からあやしまれちゃうから」

「ゼラも、最初は怪しまれていたみたいですけどね」


 カンナが呆れた様子で呟く。


「家族もいないし、どこから来たかも分からなかったせいでしょ。所長が細かい設定をしないまま、ゼラを解き放ってしまったからいけないのよ」


 ミネコが厳しく指摘する。それに対し、所長は笑う。


「でも結局町に馴染んだ。体は培養。頭にはチップを入れて行動を制御して、仕事は出来ていた」

「だけど、そのチップ。何故か脳内で焼けこげ起こしているみたいじゃないですかぁ?」


 カンナは上司に文句を言ったつもりだったが、所長は何故か楽しそうにうなずく。


「そのようだね」


 ミネコは所長の調子に呆れつつ、腕時計を見ると次の予定を提案した。


「だから、私たちはここに来たんでしょう? 事件まで起こされて、本当に迷惑だわ。これ以上被害が広がらないように、早くゼラを回収しましょう。問題が大きくなったらそれこそ面倒」


 嫌そうに話す彼女に、所長は軽い口調で言った。


「私たちには彼女の居場所が分かる。GPSを埋め込んでいるからね」

「そんなのは分かっているんですよ。肝心なのは誰が行くかってことです」


 ミネコは所長をにらむ。

 すると彼はやんわりとした口調で、彼女のそれをかわす。


「いやぁ、私は無理だよ。片付けられる気がしないからさぁ。取り逃がしても問題だし」

「そうは言っても、私も無理ですからね!」


 ミネコが先手必勝で防御線を張る。すると残ったカンナは呟くように尋ねた。


「えーっと……じゃあ、誰が行くの?」


 すると、二人の視線がカンナに集まった。


「……ぼく?」

「頼むよ。ミネコ君には始末書を書いてもらわなくちゃ」


 所長が笑って答えると、ミネコは鼻の上に皴を寄せる。それを見ると、カンナは笑ってうなずいた。


「えーっと、分かりましたぁ。ゼラの回収してきます」


 立ち上がって言ったカンナに、所長は「じゃあ、よろしく頼んだよ」というと、二人に背を向けて歩き出す。


「ちょっと、所長! どこに行くんです?」


 ミネコがいぶかし気に尋ねると、彼は振り向き、後ろ向きに歩きながら言った。


「もちろん、帰るよ」


 笑って言う上司に、ミネコはあきれてため息をいた。


「帰って始末書書けってことね……」

「大変ですね」


 所長に振り回されている同僚として、カンナは彼女のことを気の毒に思った。


「ミネコさん、がんばってください……」

「ええ、何とかするわ……。あっ、カンナ」


 頭を抱えた彼女が、ふと思い出したようにカンナを見たので、彼は少し警戒けいかいする。


「え、何ですか? ぼく、始末書の手伝いはしませんよ?」


 すると、ミネコはあからさまに嫌な顔をする。


「違うわよ」

「じゃあ、何ですか」


 尋ねると、ミネコは真面目な顔になってこういった。


「ゼラに会ったら、彼女の名前の由来だけ教えてあげて」

「え?」

「こんなことになっちゃったけど、それくらい教えてあげてもいいと思うから」

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