第8話 容疑者

 テリーヌがゴミ溜めに来ると、そこでは既に警察官が物々しい様子で立っていた。


「ゼ、ゼラ……」


 彼女は警察官の目を盗んで、ゴミ溜めにゼラの姿がないかを探す。しかし、彼女の姿は見当たらない。その代わり、白衣を着た壮年そうねんの男と同じく白衣を着た若い女と子どもが背を向けて並んで立っているのだけは見えた。


 テリーヌは、子どもがいることに違和感を抱きながらも、まずはゼラを探さなくては、と別の方へ視線を移した。


「……」

「何か御用ですか」


 熱心に何かを探している様子だったからだろう。近くにいた警察官が、テリーヌに声を掛けた。


「あ、いえ、あの……ちょっと人を探しているだけ、です……」

「人、ですか?」

「ええ……そうです」

「名前は?」

「ゼラといいます。二十歳前半の女の子なんだけど……」


 すると、そのとき警察官の表情が微妙に変化する。

 しかし、テリーヌはそれに気づかなかった。


「もしかして、行方不明とか?」

「ええ? いえ、そんなことはないと思うけど……」


 テリーヌは大きく首を振った。ゼラがいなくなるはずがない。そう思っていたのである。

 すると、警察官は人のよさそうな笑みを浮かべて、こう言った。


「我々も、探しているんですよ」

「え?」

「ゼラという女を」


「女」という言い方に、テリーヌは眉をひそめた。彼女は無意識に右手を胸に近づけ、ぎゅっとこぶしを握った。


「どうして、ですか……」

「ちょっと事情を聞きたいんですよ」

「事情?」

「今回の事件のことで何か知っているんじゃないかと。重要参考人として、ね」

「どうして……、ゼラが重要参考人……?」

「犯人がまだ捕まっていないからです」

「え⁉ それは大変じゃないですか」

「そうです。大変なんです」


 そのとき、テリーヌははっとした。もしかすると、この警察官たちはゼラを犯人として疑っているのではないか、と。確か、殺された人物は廃棄業者ではなかったか、と。


「あの、まさかですけど、ゼラのことを疑っていない、ですよね?」


 テリーヌは思わずそんなことを聞いてしまった。すると警察官は真剣な表情で言った。


「それはどうでしょう。まずは話をしてみないことには分かりません」


 テリーヌはごくりと唾を飲み込んだ。


「これからこの辺りの方々に事情聴取をするつもりです。あなたは『ゼラ』という者について知っているようですし、是非ご協力お願いいたしますね」


 テリーヌは警察官の言葉に、少し後ずさる。


 ――犯人? まさかあの子が、さっきの事件を起こしたって言うの?


 彼女はその呟きを自分の中で否定する。


 ――いいえ。そんなことしないわ。ゼラはそんなことをするような子じゃない。

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