第5話 戻ってきたゼラ

 ゼラは、ひと月帰ってこなかった。

 だが町の人々、特にゴミ溜めの近所に住んでいた人たちは毎日のように役場におもむいて、ゼラのことをかばった。


「あの子はいい子なんだ! 私たちの味方なんだよ!」

「そうはいいましてもねぇ……」

「なにさ、あたしらがあそこの更地を何とかしてといっても何にもできない奴らが! ゼラの何が分かるって言うのさ!」

「そうは言っても、ゼラという人は身元不明なんです。どこから来たのか分からない。我々はそれを野放しにしておくわけにはいかないんですよ」


 このようなやり取りが毎日、毎日繰り返された。

 彼女が帰ってこない間、町の人はゴミ溜めになっていたところを片付けた。少しずつ、少しずつ。ゼラが帰って来たとき、少しでも喜んでもらえるように、一生懸命に頑張った。


 それからひと月経った日のこと。

 ゼラは一時的に解放されると、ゴミ溜めに帰り、その様子を見て驚いた。


「前より、きれいになってる……」


 驚いたゼラの隣に、テリーヌが立った。


「お帰り、ゼラ」

「おばさん、これは……?」

「驚いたかい? これね、皆で頑張ったんだよ。ゼラが帰って来たとき、少しでもきれいになっていたらいいねって、話してさ。片付けたんだ」

「すごい……! 本当に、すごいです!」

「でも、これはゼラのお陰なんだよ」

「私の?」


 テリーヌはうなずいた。


「あんたがいなかったら、どうにかしようなんて思わなかった。役場の連中が言うように、ここは本来ゴミ処理連中の土地なんだ。だから、ここを片付けることができなかった。だけど毎日悪臭がするし、見た目も悪い。挙句あげくの果てには、風が吹けばゴミがこちらに飛んで来るし、雨が降ったら流れてくる。環境は悪くなるばかりで最悪な気分だったんだ。それをゼラが来てくれたお陰で、なんとかしようとする気になった。ありがとう」


 テリーヌのお礼に、ゼラは首を横に振った。


「私は……何もしていません」


「しているよ。ゼラがいたお陰でなんとか出来たんだ。この辺りはさ、このゴミ溜めがあるせいで、人様の家や畑にゴミを捨てていく連中もいるんだよ。このゴミ溜めがあるせいで、あたしたちみんなの土地が勝手に汚されていくんだ。その上、他人が捨てたゴミを片付けるのは、土地を所有しているあたしたち。そんなの理不尽だろう。だからどうしてもここを片付けたかったんだ。その勇気をくれたのは、ゼラなんだ。だから、あんたのお陰なんだよ」


「そうでしょうか……」


 テリーヌはにっと笑うと、彼女の手を掴み引っ張った。


「テリーヌおばさん?」

「お腹空いているだろう。ゼラが帰って来るって言うんで、ご馳走ちそうを用意していたんだ。皆、待っているよ」


 ゼラは瞳に涙を溜めて、ふわっと笑う。


「ありがとう」

「おかえり、ゼラ」


 するとゼラは小さく笑い、こう答えた。


「ただいまです」

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