第3話 近所の人たち

 テリーヌは、ゼラに対して世話を焼くようになった。


「住んでいるところがないのかい。それだったらうちにおいで」


 そう言って、ゼラを家に連れて来てはご飯を食べさせてあげた。

 ゼラはほっそりとしていて、恰幅かっぷくのいいテリーヌの半分もないようようである。


 そのため食が細いのかと思いきや、食事を出すとぺろりと食べてしまう。

 また、服を持っていなかったゼラに娘の服をくれてやった。


「着替えをもっていないのかい。私の娘のお古でよかったら着たらいいよ。もうね、家を出てしまって今はいないんだけど、部屋に置いたものがそのまま残っているのさ」


 どれも横幅が大きかったが、それは仕方のないこと。ゼラは普通の人よりも細かったのだから。だが、テリーヌのところで食事をするうちに、みるみる体型がよくなっていった。そして彼女は、身だしなみを整えただけでとてもきれいな、そう、見た目だけではない美しさを持った女性に変わっていった。


 テリーヌがゼラと関わるようになってからというもの、近所の人たちも気になって、彼女の家に来るようになった。


 ――あの子だよ。

 ――あの子が、ゴミ溜めに住んでいる子だよ。


 最初は得体の知れない者を見るように、人々は話していた。


 しかし、テリーヌのもとで生活をしていくうちに、彼女の容姿はだんだん普通の人に近づいていった。コケていた頬も、赤みのあるふわりとしたものになり、ぼさぼさだった髪も艶のある長い黒髪にもどっていったのである。


 すると他のおばさんもおじさんも、お兄さんも、お姉さんも、子供たちも、勇気を出してゼラに近づくようになった。


 彼女は話すのが苦手だったが、かわりに柔らかくにこりと笑う。

 するとたちまちに人々はゼラと関わり合うようになっていった。


 ――ゼラ、お腹空いているだろう。うちのおにぎり食べないかい?

 ――お姉ちゃん、ぼくのアメあげるよ!

 ――どうやったら修理できんのかな。俺にも出来っかな。教えてくれ。

 ――ゼラ、うちのお風呂に入りにこない? ね、体を洗ったら気持ちいいわよ。

 ――お布団、用意したよ。毎日、寝るときはうちで寝たらいいよ。


 そうして近所の人たちの輪が広がった。

 ゼラは相変わらず、ほとんど無口で、黙々とゴミ溜めで作業をしていたが、近所の人たちが手伝うようになっていき、その場所が少しずつ綺麗になっていた。それは近所の人たちが望んでいたことでもあった。


 ――ゼラが来てくれたことで、ここがまたきれいな更地さらちになる!


 近所の人たちはそれを期待していた。

 だが、事件は突然起こる。

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