第4話 ファルマの王女達 Ep.第三王女
カリカリカリカリカリカリカリカリ
カリカリカリカリカリカリカリカリ
―PM2:30
数々の花が咲き乱れる温室の中、
奇妙な音にあわせて
羽ペンが便箋の上を流れるように滑る。
「ミオ王女様、こちらにミルクティーとチョコ入りビスケットをご用意させていだきました。お手紙の合間にゆっくり召し上がってください。では失礼します。」
机の空いたスペースに、メイドがおやつをそっと添えて一歩下がり丁寧なお辞儀をする。
「ありがとう。ゆっくりいただくわ」
メイドに軽く笑顔を向け、再び文字を便箋に綴り始める。
人とのかかわり合いを極度に苦手とするミオに任されたのは、他国へ送る文書の清書を
何枚も眠る前まで行うのが第三王女の仕事であった。
「ふぅ…さすがに疲れてきたかな」
清書の手を休め、前に流れていた腰まである長い栗色の髪を後ろに整えてから、
ビスケットに手を伸ばし
ちいさく
(遊びに行きたいなぁ。劇を観に行きたい)
彼女の趣味は演劇鑑賞で、暇があれば日に何回でも見に行けるほどの演劇好きである。
行けないとストレスになるほどに。
カリッ パクッ
最後の一口をお腹に放り込み、気分転換にとお気に入りの演劇のダンスのステップを踏む。
「♪♪~~~~♪~~♪~♪♪♪~」
「お嬢。ごきげんよう。演劇いきませんか」
「えっ?!!アルビレオ!?!!!?あっ」
音もなく現れた男に驚きステップを崩す。
「おっと」
「来てるならノックして………はー驚いた」
ミオに駆け寄り颯爽と受け止めたのは
彼女の婚約者で
隣国王室のアルビレオ皇太子。
彼もまた”無類”の演劇好きである。
婚約者であるまえに友になっていた二人は
夫婦の約束を交わす際の意気投合も
ことさらはやかったと言う。
「…ファルマウテラの演劇を観に来た、だけではないでしょ。姉様になにかご用事で?」
「さすが妹姫。大臣総会議に出席させていただきたくて、直談判しに来たんだよ。でも、演劇も一緒に観に来たのも嘘じゃないよ。」
抱き止められた体勢のまま
微笑む
「いいわ。どっちも付き合ってあげる。
変なこと言い出したりしたら足の骨を踏んで折ってやるんだから。覚悟しなさい。」
「ありがとう。ではお手をどうぞ、レディ」
よれてしまった服装を正して、
散らかっていた清書済みの便箋とそうでないものを紐で纏めて手持ちバックにいれる。
温室をでて、メイドに退出の声をかけた二人は手を繋いで執務室に向かうのだった。
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