8【感想論一般】具体目標型と抽象目標型(2/3)
具体的な目標を持つ「点と点を繋ぐ、方向のアドバイス」の具体目標型、抽象的な目標を持つ「線を伸ばす、距離のアドバイス」の抽象目標型、それぞれお話してきました。
今回はそれぞれの弱点をお話します。
まず具体目標型。
具体目標型の弱点は、作者や作品への矯正力が強すぎる場合があることです。
具体目標型は、作品・作者の現在位置によっては「創作を曲げる」という動作を行うことがあります。「冒頭でどんな作品かわかるようにしましょう」「プロットを作りましょう」「ターゲットを絞りましょう」と、作品・作者の適正を別にして普遍的な指導を行うことがあります。これは小説の書き方に多大な影響を与えるものであるにもかかわらず、作者ごとのチューニングがしっかりされていません。
優秀な具体目標型は曲げ幅の小さいゴールを提案できますが、それでも大なり小なりは曲げる必要があるだろうと思います。
これはその人が小説を書こうと思った動機を、その人の小説の適性を、どうしても無視してしまう動作です。「成功したいんだったらどうしても犠牲にしないといけないものがあるよ」という発想です。
創作技術もそうですが、創作活動そのものに人生上の大事なものを見出している作者にとっては、その発想が苦痛になってしまうことがあります。「こんなことがやりたくて小説書いてたんだっけ」と思われうるものです。
「方向」へのアドバイスは、それだけ根底を触ってしまう危険なものです。
「でも本気で創作するってそういうことでしょ?」と思われる方は「本気で創作活動を行う=プロ(書籍化、商業ベース)を目指す」を言語化なく嚥下してしまっているので内省をオススメします。
抽象目標型はこのリスクが非常に小さいことが挙げられます。
その人の“向いている”方向を伸ばすことを考えるので、作者ごとのチューニングに神経を注ぎます。もちろん「面白さ」を目指した具体的な指摘を行うので作者への振動はあるでしょうが、少なくとも創作を曲げてしまうことはおよそありません。
次に抽象目標型の弱点。
抽象目標型の弱点は、矯正力に乏しくて成果が実感しにくい場合があることです。
抽象目標型はできるだけその創作を曲げずにアドバイスすることを至上とします。言い換えれば矯正力に乏しい。その作品の方向を変えないのは、その作品の方向を変える力がないことも指します。
作者・作品の魅力の種類は無限ですから「この魅力を伸ばしても読者なんか増えないだろうな」という魅力も沢山あります。その魅力を伸ばしても具体的な目標には永遠に到達できないだろう、そんなケースも沢山あります。しかし抽象目標型はそれをわかっていながら、読者が増えるようなアドバイスに舵を切りません。
むしろ読者が増えない魅力を強化して、なおのこと読者がつかない作品にしてしまうことだってあります。
これにより小説作者が成果を実感しにくいことがあります。「この感想書きの言うことはもっともだ。自作をすごく理解してくれている。指摘のとおりに手直しすればもっと面白くなる!」と思って手直しをしても、それが読者増や公募受賞といった目に見える結果に繋がらない。むしろ悪化する。
抽象目標型のアドバイスにより、自作は以前よりも魅力の距離を伸ばした。しかしその魅力を魅力と思う人は少ない。このときに「じゃあ意味ないじゃん」と思う人にとっては、抽象目標型の感想は意味がないように感じられてしまうのです。
逆に具体目標型は読者増や公募受賞という目に見える結果に繋がるアドバイスをしますから、「言うとおりにしたら読者が増えた! 公募の成績が良くなった!」と成果が実感しやすい。読者増や公募受賞という観点に立ったときの矯正力があるのが強みですね。
と、両型の弱点は「矯正力があるからこその強み・弱み」「矯正力がないからこその強み・弱み」が主に挙げられると思います。
この両型の弱点ですが、小説作者が特に気をつけるべきは具体目標型の弱点です。矯正力が強いからこその弱み。
何故か。
前回の記事で
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なので実質的には「具体的な目標を持つ感想書き」と「具体的な目標を持たない感想書き」という分け方です。
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というお話をしました。具体目標型は「面白さ」と「各種成功」の両方を追い求めている。抽象目標型は「面白さ」だけを追い求めている。
なのでたとえば公募に受賞したいなと思っている人が抽象目標型の指摘を受けても、プラスにならないだけで、マイナスにもならないんですよね。具体目標型だって「面白さ」は求めているから、「面白さ」だけの指摘を受けてもマイナスにはならない。全ての場合において面白“すぎる”なんてことはありませんからね。面白さは際限なく求めていい。
そのあとで「各種成功」を求めるときは、既に得た「面白さ」をいかに残して照準を調整するかという発想になるでしょう。得た「面白さ」は邪魔にならない。
しかし公募や人気には本質的な興味はなくて「面白さ」こそを真剣に求めている人が具体目標型の指摘を受けると、マイナスになるリスクがあります。自分の「面白さ」を追求していたのに、「各種成功」を至上としたチューニングなしの普遍的な創作方法を指導されて受けいれてしまって、「自分はこんな作品を書きたかったっけ」「何で創作やってたんだっけ。こんなことやりたかったんだっけ」と自分を見失ってしまうリスクがあるのです。
そのあとで「各種成功」は考えずに純粋に自分が書きたい作品を書こうと思っても、得た「攻略法」が視界を妨げてしまうかもしれません。得た「攻略法」はおよそ不要なのに、手癖として残ってしまうかもしれない。
真っ直ぐ伸びに伸びた棒を曲げるのは簡単です。しかし曲がってしまった棒を真っ直ぐに戻すのはとても難しい。
具体的目標を求める小説作者が抽象目標型のアドバイスを受けてもプラスにならないだけです。薬にならないかもしれない指摘。
抽象的目標を求める小説作者が具体目標型のアドバイスを受けるとマイナスになるかもしれない。毒になるかもしれない指摘。
技術や意識を積みあげていくのは難しくないんですけど、技術や意識を取り去るのは非常に難しいんですよね。新たな習慣を取りいれるより染みついた習慣を除去するほうがずっと大変です。
ですので、気をつけるべきは具体目標型アドバイスと考えます。
次の記事では、これまでの内容を踏まえての小説作者の向きあい方をお話します。
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