7【感想論一般】具体目標型と抽象目標型(1/3)

 【感想論一般】とあるとおり、私の感想観の根幹にある考え方をひとつ紹介します。

 その感想が作家論なのかテクスト論なのか、に近いぐらい根幹の考え方です。こちらもいずれ記事にできたらと思いますが、今回は別の根幹。少し長くなります。



 指摘を伴う感想書きを二種類に分けたいと思います。

 「具体的な目標を持つ感想書き」と「抽象的な目標を持つ感想書き」です。

 便宜上、具体目標型と抽象目標型と呼称します。

 具体的な目標とは何か。それは「投稿サイトでランキング上位になりたい」「公募で受賞したい」「書籍化したい」「プロになりたい」「プロとして売れたい」といったものです。“成功”という言葉が似合う目標ですね。

 こういったものを目標にして感想を書く感想書きを、具体目標型の感想書きと呼びたいと思います。

 ちなみに感想書きとしていますが感想書きを自称する者のみならず、公募の下読みやプロの編集者などの多くはここに分類されるだろうと思います。下読みやプロ編集者や公募選評から発せられるアドバイスのほぼ全てが、具体目標型です。そりゃそうだ。


 一方、抽象的な目標とは何か。それは「面白さ」です。あるいは「素晴らしさ」「意義深さ」と言い換えてもいいかもしれません。

 小説が持つ「面白さ」「素晴らしさ」「意義深さ」を目標にして感想を書く感想書き。これを抽象目標型の感想書きと呼びたいと思います。

 こちらも感想書きとしていますが感想書きを自称する者のみならず、プロの評論家や批評家はここに分類される方が多いだろうと思います。


 補足ですが、一般的に具体目標型は抽象目標も兼ねて持っているものだと思います。

 具体目標型ということは抽象目標である「面白さ」を目標に持っていないのか、というとそんなことはなく、「面白さ」も「公募受賞」(など)も目標に持っているということですね。

 一方抽象目標型は基本的に具体目標を持っていません。「公募受賞」「書籍化」はどうでもいいと考えていて、「面白さ」だけを目指しています。作品や作者の様子を見て、具体目標をある程度取りいれることもありますが、これは気遣いの範疇だろうと思います。

 なので実質的には「具体的な目標を持つ感想書き」と「具体的な目標を持たない感想書き」という分け方です。



 プロのシーンだと具体目標型も抽象目標型もいるイメージがありますが、アマチュアのシーンだと具体目標型が非常に多くなって抽象目標型は少ないイメージがあります。

 投稿サイトやSNSで目に飛びこんでくる創作論・アドバイスのほぼ全ては具体目標型です。主な発信者がプロを目指す小説作者、プロエンタメ小説家、下読み、編集者なので当たり前といえば当たり前です。抽象目標型のアドバイスはお目にかかること自体がレアです。自分から探しに行かないとなかなか見つかりません。統計はとっていません。

 また感想書きを自称しない作家同士の交流だとまた別ですが、感想活動を行う感想書きの多くが「投稿サイトでの目立ち度」「公募での有効性」「プロでの有効性」を感想内容に多分に盛りこんだ具体目標型であるように見えます。特に評価シートなどを使用する“厳しい””レベルが高い”感想書きはほぼ100%が具体目標型ですね。統計はとっていません。

 さらにこれも特徴ですがアマチュアシーンにおける具体目標型の感想書きでは、「具体目標型をコンセプトに据えていると明確に自覚している感想書き」は稀で、「無意識にナチュラルに具体目標型になっている感想書き」がほとんであるようにも見えます。統計はとっていません。

 上記のような特徴が存在する背景には、アマチュアのシーンにおいて「本気で創作活動を行う=プロ(書籍化、商業ベース)を目指す」という文化が根強く存在するからだろうと想像しています。


 ちなみにフィン感はゴリゴリに抽象目標型をコンセプトにした感想書きです。アマチュアも応募できる感想活動を行う感想書きとしてはそれなりにレアだと思います。これは宣伝です。




 両型の定義をしたところで、今度は性質の違いについてお話します。


 端的に言うと具体目標型は「点と点を繋ぐ、方向のアドバイス」、抽象目標型は「線を伸ばす、距離のアドバイス」といえると考えます。


 具体目標型は公募受賞や書籍化など具体的な目標を前提にしているため、目標点が有限なんですよね。感想書き側が用意できる目標が有限です。

 公募の数は有限ですし、プロになる方法も有限。ゴールポストの数が有限なのです。

 ですので指摘するときのスタンスが、「小説作者の現在位置と、具体的目標を繋げる」という発想になりがちです。どのようにしてこの小説作者を具体的目標にゴールさせるかという考え方になるのです。

 「公募で受賞するにはこういうコツがある」「プロにはこういう能力が求められる」「多くの読者に読まれ、支持されるにはこういうコツがある」という指摘がされがちですが、これは公募受賞や書籍化などの具体的目標に繋げるためです。

 たとえば具体目標型の常套アドバイスに「どんなに面白くても読まれなければ意味がない」があります。つまりその文言のあとに繋がるアドバイス内容は「面白さ」とは無関係なのです。「面白さ」そのものならこういう言い回しはしません。ではそれは何かというと各種成功に繋げるためのコツや考え方なんですよね。

 その小説作者の適性や実力を見て「あ、この小説作者の現在位置はここだ」と見極めて、そこから公募受賞や書籍化というゴールに最短距離で行けるための「方向」を指し示す。


 ですので場合によってはその小説作者の創作を曲げるという動作も発生します。ゴールは有限ですから、そのまま真っ直ぐ成長しても到達するゴールが見当たらないのならば、「ここの考え方を曲げると良いよ」というアドバイスもするだろうと思います。

 このとき曲げ幅を最低限にできるよう、より多くのゴールポストから選択できる感想書きが有能だろうと思います。ゴールポストは有限ですが複数ありますので。「作者と公募(出版社)の相性を考えよう」「その出版社のターゲット層を観察しよう」などとよく言う人がそれです。有能。当然、小説作者に「方向」を適切に示すためには、投稿サイトや公募界隈や出版界隈への鮮度ある知識が求められるでしょう。


 ということで具体目標型は「点と点を繋ぐ、方向のアドバイス」であると私は考えています。

 「あ、プロはそういう考えをするんだ」「あ、そういう考え方が有効なんだ」という攻略法をもたらすアドバイスが多い。



 次に抽象目標型。「線を伸ばす、距離のアドバイス」です。

 抽象目標型の目標は「面白さ」や「素晴らしさ」です。これは目標点が無限なんですよね。面白さや素晴らしさは作者・作品・読者の数だけ存在しており、普遍的に定義づけることはできません。つまり無限。面白さや素晴らしさの種類は無限にある。

 ですので指摘するときのスタンスが、「その小説作者の魅力を、どこまで伸ばせるか」という発想になりがちです。ゴールが無限なのだから、ひたすら真っ直ぐ進むのが一番の近道です。どのようにすればこの小説作者の魅力の距離を伸ばせるかという考え方になるのです。

 そのためその作品の魅力をこんこんと語ったり「あなたはここが魅力だから、ここをこうすればもっと伸びる」というような感想になりがちです。これはその作者・作品の方向性はおよそ無条件に肯定したうえで、それを伸ばすためです。

 その小説作者の適正や実力を見て「あ、この小説作者の向きはここだ」と見極めて、そこからさらに伸ばして面白さや素晴らしさの高みに到達するための「距離」を指し示す。


 ですので抽象目標型では、小説作者の創作を曲げることはありません。だって曲げてしまうと直線距離は短くなってしまうから。鳥人間コンテストのディスタンス部門のように。

 面白さや素晴らしさという目標は無限にあり、それへの近道は小説作者が“向いている”方向に邁進することと考えられます。この“向いている”は「その人が見ようとしている」と「その人に適正がある」の二つの意味を含みます。この両“向いている”をバランス良く使い分けるのが抽象目標型の感想書きに必要なスキルです。

 またその小説作者の方向と現在距離を見て、「少なくともここまでの距離には到達できそうだ」と面白さの可能性を見極められる感想書きが有能だろうと思います。基本的にここで感想書きが可能性のピンを刺した地点が、感想書きが小説作者に並走できる距離です。永遠に続くマラソンに、どこまで並走できるのか。


 ということで抽象目標型は「線を伸ばす、距離のアドバイス」であると私は考えています。

 なので「あ、自分にはこういう魅力があるんだ」「あ、自分にはそんな可能性があるんだ」というワクワクをもたらすアドバイスが多い。



 具体目標型は「点と点を繋ぐ、方向のアドバイス」、抽象目標型は「線を伸ばす、距離のアドバイス」という性質の違いについてお話しました。

 スポーツにたとえるなら具体目標型はサッカー、抽象目標型はマラソンでしょうか。

 両型に優劣はなく、そもそもの目的が違うのです。




 余談ですが両型の違い、感想書き自身も自覚していない場合が少なくありません。できるなら自覚している感想書きのアドバイスを受けることをオススメします。

 また小説作者が見分けるとしたらどのように見分ければ良いのか。

 たとえば「受賞作にはこういう作品が多い」「プロはこのようにしている」「長く活躍しているプロはこうだ」をアドバイスの根拠にしがちなのは具体目標型です。抽象目標型の私からすると「何の根拠にもなってへんやんけ、ちゃんと根拠言わんかい」と思うんですけど、ゴールは具体的目標なのですから成功サンプルを強く信頼するのは具体目標型からすると自然な発想なのだろうと思います

 たとえば感想間で内容が矛盾しがちなのは抽象目標型です。(多分)具体目標型の方からすると「言ってること一貫してへんやんけ、考えてることブレブレやん」と感じると思うんですけど、面白さや素晴らしさの種類は無限なので使われる創作意見も無限であり、創作意見同士が矛盾するのも当たり前という発想です。


 また別の見分け方として、指摘を受けた小説作者の感覚が「何だか自分(自作)が感想書きの城に挑んだみたいだな」と感じれば具体目標型、「何だか感想書きが自分(自作)の城に乗りこんできたみたいだな」と感じれば抽象目標型である可能性があります。

 自分が勇者になって公募やプロの高い壁に跳ね返された感じを覚えるか、とんでもない強者が自分の領域に入ってきて掌握された感じを覚えるか。「プロの小説家のレベルの高さを思い知った」と圧倒されるのか「作者である自分以上に自作を理解された」と圧倒されるのか。いずれも前者が具体目標型、後者が抽象目標型です。

 これは具体目標型は(ゴールに繋げるため)作品の方向を無条件に肯定することなく普遍的なコツを指導するから、抽象目標型は作品の方向を無条件に肯定して「この作品にはどんな可能性があるか」の見極めに腐心するからです。

 この感覚の違いで、両型を見分けられると思います。



 次の記事では両型の弱点をお話します。

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