第21話 職業油売り

私の職業は油売りだ。

慣用句としては油を売る、には仕事を怠けるいう意味がある。

仕事を怠ける事を仕事にしてはもはや油を売れていないのでは?という疑問は生じる。

だが私は紛れもなく職業油売りだ。

何故なら実際に油を売って歩いているのだから立派な職業油売りなのである。

しかし油を整髪剤として売っていた江戸時代ならいざ知らず、現代社会において油を街頭販売で買おうという人など殆どいない。

いつも立ち話をしているだけで実際売れることはほぼないと言っていい。

これではただ油を売っていると言われても文句は言えないだろう。

何故油を売ることの出来ない私に油を売ることが任されているのか、それには理由がある。

私は油売り協会に属して油を売っているのだが、そもそも協会の本来の目的は油を売ることではない。

人々に油を売らせることこそが本来の目的なのだ。

私の売っている油は揮発性が高く、少し特別な性質がある。

この油を吸気と共に吸った人間はやる気を失ってしまうのだ。

勿論恒常的な効果があるわけではない。

油を吸い込んでいるほんの少しの間だけ著しく思考が緩慢になり、人々のやる気を損なわせることが出来る。

私はこの油を街頭で売りただ立ち話をして油を売っているように見せかけて、人々に油を売ってもらうことを仕事にしている。

私の周りの世界は少しだけ停滞する。

私は職業油売りだ。

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