第22話 なんでも請負人
ワニに見惚れていたらはぐれた、ねぇ…
私がなんでも請負人、所謂便利屋だか探偵だかの合いの子のような仕事を始めてから7年が経とうとしている。
最初の頃こそ暇をしてハードボイルド探偵のような気持ちに浸る事もあったものの有り難いことにあれよあれよという間に依頼を受けない日はないほどに繁盛している。
大抵はどうということもない仕事だが今回のように、何というか気を遣うこともあるのだ。
依頼人は26歳の男。
彼が言うには一年以上付き合った彼女と水族館にデートに行った際にまさか水族館にいるとは思っていなかったワニに見惚れてしまって彼女と逸れてしまい、その後水族館の出口で合流してから彼女の様子が以前とまるで違ってしまったのだという。
「彼女あれ以来すっかり冷たくなってしまって…
それだけじゃないんですよ。
初デートで行った場所も覚えてないし、なんならほくろが無くなったんです」
ほくろ?
「彼女の左肩にあった印象的なほくろが無くなったんです。
その水族館ではぐれた事件の後急に」
それはたしかに不思議な話だ。
だが話を聞いている限り彼は水族館で彼女と逸れてしまうという失態を犯してしまい彼女の気持ちは彼から離れてきてフラれつつある、という様にしか聞こえない。
だが彼はそれでは収まらない。
「水族館で何かしらの洗脳を受けたか、最悪の場合そっくりな誰かと入れ替わってる可能性もあると思うんです」
入れ替わってる?
誰と?
「さぁ?
異星人とかですかね」
どうしたことだろう。
それで具体的には何をして欲しいという依頼になるんですかね?
「水族館を調べて欲しいんです。
あそこには絶対に何かあります。
僕が彼女を見失う筈ないし、彼女があんな風に変わってしまう筈がないんです」
調べろと言われてもねぇ…
料金はもらってしまったので水族館に行って見ることにはする。
水族館なんて何年ぶりだろう。
意外にもわくわくしている自分に気付く。
悪くない仕事だ。
水族館には何もないことを説明して、彼女との関係の修復をどうしたらいいか考える様に促そう。
あの思い込みようでは難しいかもしれないがその方がよっぽど建設的というものだ。
水族館を楽しんでいた私だが、依頼人がことが起こったと言っていた爬虫類ゾーンに足を踏み入れた瞬間何かが変わった。
そこはかとない不安感の後に襲いくるえも言われぬ幸福感。
私の体が水槽に入って感動に身を包まれている様に感じる。
これはなんだろう、それを考えることさえ出来なかなってくる。
私は戻れるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます