令和三年度ポッキーの日記念百合小説
江倉野風蘭
令和三年度ポッキーの日記念百合小説
はい今年もやって参りましたァ、某お菓子業者の販促のための日。
11月11日! 即ちポッキーの日!
というわけでほなね、この用意周到極まりなく非常にノリも良いわたしはね、ちゃんと準備をしてあるんですよ。
ポッキーゲーム用のポッキーをなァァ!!
「それで
……と、笑顔の
事実陳列罪とはこのことか。わたしはただ、この静かな部室で、喚きながら暴れることしかできなかった。
「………………………………………………ッッックソがよォ!!」
「ひッ!?」
「どいつもこいつもそいつもあいつも所構わず見つめ合いやがって! ここは高校だぞォ!? 風紀委員も生徒指導部も今日だけ有給を取っておいでだったのかァ!?!?」
「ちょっ、麻耶例年こんな情緒不安定だったっけ?」
「うるせーッ、わたしらもう高校三年やぞ!! もうこの制服を合法的に着て青春できる残り時間は少ねえんだ!! なのに見てみろ、このザマを!! 我々のいずれも、その隣に、彼氏がいない。いたこともない」
「急に落ち着くじゃん」
「ううっ……わたしだってさあ、なんかこう、夕日が差し込む放課後の教室とかでなんか良さげな雰囲気になったりとかして、こう、とにかくこうなんかしたかったんだよ……。なのにッッ!!」
「肝心なところで曖昧な願望だなあ……。てか今度は泣き始めるか。ほら、涙拭きなよ」
すっとハンカチを差し出してくる春奈。優しい。イケメン。流石わたしの十五年来の幼馴染。誰よりもわたしの傷ついた心に寄り添ってくれる……。
……ああ、だとしたら。今めちゃくちゃ良いこと思いついた。
「ねえ、春奈もポッキーゲームする相手いないんだよね?」
「まあ、残念ながら……」
「だったらもうさ、いっそわたしで妥協しておかない!?」
「えっ」
「わたしも春奈で妥協するよ! 我々に残された道は最早それしかないよ!」
「えっ、えっ? いやポッキーゲームするのは別にいいけど、ええっ?」
そう、これしかない。この制服を合法的に着ながら迎えるポッキーの日は今日で最後なんだから、もう
わたしがポッキーを一本咥えて「んーっ」と差し出すと、春奈はそれに食いついてきて……
――ボキッ。
「……は?」
ちょっとだけかじって折りやがった!
なんだこいつ! ふざけてんのか!? ポッキーゲーム、するのはいいけどって、言ったのに! たった三十秒前に言ったのに!!
えっ……ていうか普通にショックなんですけど。わたしは幼馴染とすらポッキーゲームできないの? こんな形で拒否られちゃうの? 幼馴染にすら?
「わたしとするのそんなにいやだった……?」
「あ、ごめん、別にそんなんじゃなかったんだけど、その……」
「なんじゃい、言うてみい。言い訳次第じゃ小指一本で勘弁しちゃるけえ」
「あの……じゃあ率直に申し上げるんだけど、さ……」
「おう言うてみい」
「………………………………ポッキー咥えた麻耶の顔がさ、キス顔に見えてさ……」
「ほーう、なるほどのう……ゑっ?」
「そう思ったら……なんか……麻耶とキスするみたいだなーって思えちゃって……」
「……………………………………………………………………うーん??????????」
え、待って、何この雰囲気? いきなりどうした?
なんでいきなりこの幼馴染は乙女チックに湿気を放ち始めてるの? 顔めっちゃ赤いけど風邪ひいた? やだなーもうちゃんと帰ったら手洗いうがいして野菜も好き嫌いせず食べなさいってお母さん毎日言ってるでしょー? ママはあなたをそんな風に育てた覚えはなくってよ!
……あの、嘘だよね? エイプリルフールにはあと五ヶ月ほど早いんだけど。
「だからその……妥協で麻耶とするのは……ちょっと無理って感じちゃったというか……心の準備とか、ね? その、色々……」
「えっ……あ、はい」
「ごめんね? なんかいきなり変なこと言い出して」
「あっいえ、こちらこそ軽率な言動で不快にさせてしまい大変申し訳なく……」
「ああ、謝らなくていいから! 不快にもなってないし! ただ三分間ほど待ってくれればそれでいいから!」
「分かりました……じゃあ三分間舞ってやるね……」
「舞われると視界がうるさいからじっと待っててほしいかな」
「はい……」
§
それから五年後。
高校を出て、大学も出たわたしたちは。
なんか知らんけど結婚しました。
ッかしいな……こんな筈ではなかったんだけどな。
でもまあいいか……幸せだし……わたしも春奈のこと好きだし……。
令和三年度ポッキーの日記念百合小説 江倉野風蘭 @soul_scrfc
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