スタンガン
高井 緑
短編
『スタンガンではペースメーカーを壊せません。相手を殺すだけならスタンガンを5秒以上通電させた上で、石などを拾って頭を殴るのが確実かと。』
アルバイトから家に帰ると、このような手紙が届いていた。はて、送り主は佐々木某、知らない人物だ。内容にも心当たりが無い。誰かを殺したい程恨んでいるということもないし、ペースメーカーをトリックに使ったミステリー小説も書いてないし、スタンガンも持っていない。
そも本当に私宛だっただろうか、と宛名を見るがやはり私の名前がはっきり書いてある。住所も正しい。
イタズラ目的だろうか。恐ろしい時代だ、住所と名前などどこからでも流出するのだな。送り主の住所と郵便番号は書いてあるが電話番号は無い。隣の県だ。
きっとこの佐々木某に手紙を送り返すと、詐欺師集団の「騙されやすいリスト」に名前が載って、以降あの手この手で金を毟り取ろうとモーションをかけられるに違いない。警察を騙った電話がかかってきたり、消防署の方から来ましたという人が来客するやも……
……なんだ、楽しそうじゃないか。よし、返事を書こう。
『私は小説家ではないのですが、スタンガンでペースメーカーを壊すという発想は面白いですね。でもそれは不可能で、スタンガンで麻痺させた後、石を拾って殴るしかないということでしょうか。』
我ながらいい手紙がかけた。ほどよく頭が悪く善良そうで、いかにも”カモ”になりそうないい文面だ。
これからどんなことが起こるのだろう。手紙を投函し、期待に胸を膨らませながら就寝した。
数日後、隣県の傷害事件が報道された。男が会社の上司にスタンガンで襲いかかったが返り討ちあったという事件だ。逮捕された佐々木某という名前には全くもって心当たりがない。ただ、スタンガンは5秒以上当て続けないといけないということを知らなかったんだなぁ、と思っただけだ。
誰かを殺したい程恨んでいるということもないし、ペースメーカーをトリックに使ったミステリー小説も書いてないし、スタンガンも持っていない。
そんな必要に迫られることがないといいなぁと思いながら、アルバイトへ向かった。
スタンガン 高井 緑 @syouyuuyu
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