第一章 夏と冬

第1話

「あなたが、高野宮家の息子の高野宮洋一ね。早速だけどあなたには転校してもらうわ」


突然言われたことに、頭が追いつかなかった。転校?なぜそうなるのかが不思議でしょうがない。でもまずはこの女生徒をどうにかしなければ。


「自己紹介もせずに失礼なやつだな」

「あら、それは失礼したわね。私は―――」

「おそーーーい!!!」


途端、元気な叫びが廊下に響き渡る。どうやら琴花がしびれを切らして飛び出してきたようだ。


「もう!遅すぎだよ洋一くん!何時間待たされたと思っ…て―――」


瞬間、琴花の動きがフリーズした。


「え、この人…誰?」


黒髪の女生徒は嘲笑するようにニヤつかせて言った。


「あら、可愛いカノジョさんね」

「か、カノジョじゃないですけど!だいたいなんであなたは洋一くんと一緒にいるんですか!?」


琴花は落ち着きがなく、なんだか焦っているようだった。女生徒は変わらず冷静としていて、氷のような視線を俺に送り続けていた。


「落ち着けって。俺もよく分からないんだ。」

「落ち着いてなんか居られないよー!」


騒ぐ琴花と困惑する俺を尻目に、女生徒はゆっくりこちらに視線を変え、話し始めた。


「あなた達本当に仲がいいわね。あら、そういえば紹介がまだだったわね。私は冬院氷那とういんひな。この高野宮洋一の――――許嫁よ。」


「「っ!!」」


こいつが父さんの言ってた許嫁か?父さんのあれがどうやら所謂フラグになっていたらしい。横を見ると、琴花まで固まっており、どうやら震えていた。


「……」

「…琴花?」


そして、何やら覚悟を決めたような表情に変わり、俺に、ニコッと微笑んで話しかけた。


「あ、あー、私、用事を思い出したんだった!…じ、じゃあね洋一くん」

「ちょ、琴花!?」


そう言うと、琴花はどこかへ走り去って行った。後で授業終わりにでも理由を聞いてみよう。

氷那は琴花が走り去って行ったあと、構わず話を続けた。


「行ってしまったわね。まあいいわ、それより早く行きましょ」


そう言って氷那は俺の手を引いて玄関へ行こうとする。このまま連れていかれるのか、俺は。


「君たち、もうすぐ昼休みが終わるのに、玄関の前で何をしているんだい?先生にチクっちゃうよ?」


ヒーローが、現れた。





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