冬空と彼女

信仙夜祭

寒い日の赤いきつね

 目が覚めた。


 自分の息が白い……。頬に触る空気が痛い……。

 時計を見ると、何時もの起床時間だ。


「良かった。体内時計は狂っていない……。でも、昨夜は少し本を読み過ぎたな。寝不足感が否めない。自重しないとな」


 ここで難問が立ち塞がった。

 寒くて布団から抜け出せなかったのだ。

 部屋を見渡すと、上着が椅子に掛けらている。

 手を伸ばすが、空気が冷たく腕を伸ばしきれない。


 明日からは、掛け布団を冬用にしたい。

 毛布一枚足すのもいいだろう。

 だが、今日はどうするか……。


 ──パタパタパタ


 思案していると、足音が聞こえた。

 急いでいるというより、怒っている感じだ。

 俺は、布団に潜る。


 ──バン


「何時まで寝てんのよ~!?」


「……後五分」


 テンプレ的な会話をすると、彼女は俺の防御力の要に掴みかかった。

 そして、掛布団を剥ぎ取られる。

 全身を襲う冷気……。

 慌てて剥ぎ取られた、布団に縋りついた。

 ついでに上着も手に入れたが、こちらは冷え切っている。

 震える体で上着を着て、また掛布団を纏う。


「ガタガタ、ブルブル」


 ──シャ


 カーテンが開かれる。

 眩しい光が部屋を照らした。そして、何時もと違う風景が飛び込んで来た。


「……今日は雪か」


「バスも電車も動いているから、遅刻の言い訳にはなんないからね!」


 美しい光景に目を奪われる。

 そうか、もう冬の訪れなのだな……。


「聞いてる?」


 彼女が、俺の顔を覗き込んで来た。


「きゃっ!?」


 彼女にも掛布団を被せ、座らせて肩を寄せ合う。


「えへへ。暖かいね」


「……変な所触ったら、蹴り潰すかんね」


「ひぃっ!」


 慌てて、彼女の肩から手を放す。

 彼女は呆れたように立ち上がり、ジト目で俺を見て来た。


「目は覚めたよね? それで、今日は赤? それとも緑?」


「……胃が痛いので赤で」


 彼女はそのまま部屋を出て行ってしまった。


「少しは目が覚めたけど、やっぱり寒い。もう少し着よう。それと、彼女の機嫌の悪さは最高潮だったな」


 これ以上、機嫌を損ねると拳が飛んで来る。

 俺は急いでリビングへと向かった。


「お湯入れておいたかんね」


「……ありがとう」


 彼女は、料理ができない。普段は俺が調理を担当している。

 炊事洗濯全てが苦手であり、今頑張って習得中である。

 それでも、朝は頑張って起きてくれる。朝の弱い俺にはとてもありがたい。

 席に着き、カップのフタを開ける。

 俺が好んで食べる"赤いきつね"だ。

 出汁の効いたとても良い香りが、鼻をくすぐった。

 スルスルと麺が、口に収まって行く。

 最後にお揚げだ。スープを大量に含んだお揚げを口に放り込み、出汁の美味さを味わう。

 完全に目が覚めた。体も温まった。そして、今日一日頑張ろうと言う気になる。


「ごちそうさまでした。さて、今日も一日頑張るか」


『う~ん』と伸びをする。


「お粗末様でした。遅刻しないでね」


 彼女が、片付けてくれる。その後ろ姿を見て思ってしまった。

 他人からどう見られようと関係ない。


 今俺は、幸せである。

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