第612話 勇者のレゾンデートル(存在意義)19

勇者を名乗る男にアレクが刃向かっているので、仕方なく俺が前に出る。


あまり目立ちたくないんだが、しょうがない。


アレクをチビ助呼ばわりされて、俺も黙っていられない。


口の聞き方に、ちょっとムカついている。


「ご主人さま、ここは私にやらせて」とアレク


う〜ん、困ったな


「なんだって、このチビ助が俺とやるっていうのか?」


「この野郎」とアレクが怒り出す、俺は抑えるのに必死だ。


アレクが俺の拘束を解こうともがいている。


俺はちらっと、ギルド職員の方を見た。


職員は、恐々、カウンターの下にいるみたい。


ギルド職員は女性だけみたいだからしょうがないけど。


「よし、アレク、いくからには勝てよ」


「うん、わかった、ご主人さま、ありがとう」という言葉を聞いて、怒りに負けていない行動だと判断した。


アレクたちは見た目見ても幼い感じがするが、もう出会ってからのアレクたちじゃない、かなりレベルアップしているので勇者だからといって負ける事はないだろうと思う。


本当なら俺が叩きのめさなければいけない相手だけど。


アレクを信用することにした。


「アレク、殺すなよ」


「はっ、俺が、そのチビ助に殺されるとでも?」


「ああ、思っている」


「お前ちょっと頭がおかしいんじゃないか?」


「いや、正常だ」


アレクが「おかしいのはお前だ」


「おい、ガキ、許さんぞ、勇者の俺を、貶すのは」


「貶したんじゃなく、馬鹿にしたんだ」


「同じことだろ」と言って勇者の男は剣を抜いた。


勇者が刀の鞘から抜いた件は青く光っている。


青く光るのは勇者の印でもある。


しかし、こいつのステータスの称号はみることができないからわからない。


アレクがどういう戦いをするのか俺にもわかっていないがアレクが勝つことを信じている。


アレクを相手するのに、勇者は聖剣を抜いて戦うつもりだ。


馬鹿にしている相手に聖剣を抜いて戦うと言うのも変な話だ。


「おい、いつでもいいぜ」と勇者


「それじゃ、いかさせてもらいますね」とアレク。


アレクが、そういうなり、アレクの体から、みたこともないオーラがほと走り、みなぎり始める。


「ハァ〜あああああああっ」と戦気を漲らせるアレク、よっぽど腹に据えかねたんだな。


「なんだ、ちび、そんな声なんて、怖くないぞ」


えっ、勇者って、このアレクのオーラが見えていないのか?


勇者であれば最低限でも見えるべきものが見えていない‥‥‥


全身から湧き立つ戦気に髪の毛まで逆立つ。


アレクが歩き始める。


勇者は聖剣を構えたが、アレクが何も持っていないことを見て聖剣を鞘に納めた。


「拳1発でいいだろう」と勇者はいう。


勇者はステップを踏みながら、拳を前に突き出す。


アレクは、もう勇者の目の前


「じゃ、死ね」と勇者


勇者が「はっ」と気合を込めて拳を前に突き出す。


その時にアレクの髪の毛が少し靡いた。


アレクの歩みは止まらない。


アレクは構えることもなく、戦気を周りに漂わせながら前に進んでいくだけ。


「なんだって? どうして、そこに立っていられる?」


なにを知っているんだ? この勇者?


アレクは勇者の目の前まで歩いてきた。


そこでアレクの戦気が膨れ上がる。


その戦気の圧力に当てられた勇者は、後ろにひっくり返って尻餅をついた。


勇者の目が大きく見開かれる。口元が緩んでいる。


「ちょっと待った、何かの間違いだ、俺が、こんなガキに負けるなんてありえねえ」


アレクは建物を壊すこともなく勝敗をつけようとしているみたいだ。


アレク、えらいぞ


「勇者の俺が、こんなガキに負けるわけはねえ」


「はっきり認めた方がいいぞ」と俺


「うるさい、これは何かの間違いだ、龍に勝った俺が負けるなんて。お前たち、何者だ?」


「俺たちは旅の冒険者だ‥‥‥」と言おうとしたら、アレクが、「私たち本物の勇者のパーティーメンバーよ」と言った。


またもや あちゃ〜だ


‥‥‥静寂の時間が流れる‥‥‥


ざわめきが起きる‥‥‥あちらこちらで‥‥‥


1人の発言から「おい、俺、あの人、みたことがあるぞ」と俺を指して言う。


「うわっ、なんだかみたことがあると思っていたのよね」と女性


「ほんもの?」


「俺、本持っている」と本を出して比べようとしている。


「あっ、俺も本持っている」と数人が本を出す。


コリンが静かだったので忘れていたが、この国でもコリンが書いた本が出回ってるのか?


「もしかして本物の勇者?」


「うわっ、私、ドキドキしてきた、本物のクリス様に会えるなんて」


「キャ〜、クリス様〜」


ギルド内が騒がしくなってきた。


アレクの戦気に押された勇者は、呆然としている。


「あれが、ホンモノ?」


この国の勇者の元にパーティーメンバーが駆け寄り、尻餅をついている勇者を、ギルド内から連れ出す。


そのあとが大変だった。


みんなが押し寄せてきて、サインやら、握手してくれだとか、体をベタベタ触られたので、俺はアレクを連れて転移して逃げ出した。


メンバーが借りている宿にアレクの思考のイメージを使って転移してきた。


「ご主人さま、ごめんなさい、私、我慢できなくって」とアレク


「いや、いいんだよアレク」


「でも‥‥‥」


「あれでいいんだ、あの人は勇者なのか、確認はできなかったけど、所詮、人間レベルの勇者だっていうことだ思う」


そこにメンバー全員が転移してきた。


俺の言葉を聞いて「じゃ、私たちは人間じゃないっていうの?』とイザベラ


「いや、そうは言っていないけど‥‥‥」


「けど?」


「あっ、いや、なんでもない」


「勇者を負かすパーティーメンバーなんて‥‥‥」とアリシア


「うん、女性陣が最強」とエイミー


「そうだね」とアイリス


アデルも「うん最強」


コリンが「女性陣、バンザイ」と締め括った。


俺たちは、部屋に直接、転移してきたので、一度、転移で路地まで出て、また玄関から中に入ってきた。


よし、これで帰れると思ったら、モグラの奴を忘れていた。


早速、モグラの奴を索敵すると、まだ洞窟にいるみたいだ。


俺は部屋で観察していると、モグラはムクッと起き上がって、なにをするのかと思えば背伸びをした。


背伸びをしたモグラは、立ち上がって、洞窟の中をウロウロ歩いている。


そして、おもむろに転移した。


どこに行ったのか、探っているとモグラは、オーリス王国に転移してきた。


俺は、オーリス王国に転移したモグラを、悠長に野放しにしておく事はできないと考えてメンバーに緊急事態を伝える。


「みんな、追っていたモグラが動き出して、オーリス王国に転移した」


「えっ、モグラ?」とみんなには説明していないことを気づかされた。


「モグラって言うのは、魔物を操っていたやつなんだけど、、その時には地中深く潜んでいたからつけた名称だよ」


「なんだ、それでモグラか」とアレク


「じゃ、モグラの転移したのは、オーリス王国だということね」とソフィア


「うん、モグラがなにをするのか、わからないから、急ぐよ」


「了解」と全員が頷いた。



俺たちはモグラを追って、オーリス王国に戻ってきた。


戻ってきてから、初めにしたことは、レイチェルへの報告。


レイチェルから頼まれて、勇者のところに行ったわけだし、報告しなければならない。


念話で「レイチェル聞こえますか?」と送ると、すぐにレイチェルが出てくれた。


「はい、こちらレイチェルです、もう知っていますよ」


「勇者の件ですよね」


「はい、そうです、人の勇者だったのですね、でも、突然変異でイレギュラーで現れたみたいですね」


「はい? イレギュラーみたいですか?」


「はい、そうです、あんな勇者じゃ、役に立ちません、せめて龍でも相手にしていればいいです」


「龍って、そんなに弱いんですか?」


「はい、この時代には、強い龍はいません」


と話しているとロゼッタが眉毛をピクリと動かした。


「あっ、そこにいるロゼッタは別ですよ」


ロゼッタが安堵のため息をついた。

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