第606話 勇者のレゾンデートル(存在意義)14

俺の背後に立っていたのは、花瓶の水を変えようとしていたミーアだった。


持っている花瓶には花が生けてある。


「えっ、クリス様‥‥‥」


「うん、久しぶり、ミーア」


「うわぁ、本当にクリス様だ」と俺に突進してくる。


すごい勢いで突進してくるから、俺が自然と避けてしまった。


勢い余って、数歩、通り過ぎてから、振り向いてミーアは


「ど、どうして避けるんですか?」


「いや、なんとなく‥‥‥だって君はお姫様だろ」


「今、ここでは姫じゃなく、ミーアですから大丈夫です」と行って俺に抱きついてきた。


そこにアレクとメンバー全員が出てきた。


「あっ、ミーア、ご主人さまに抱きついて‥‥‥私だって、したことがないのに‥‥‥」


「あっ、アレクちゃん」とアレクの方に向かって歩き出す。


2人して手を取り合って喜んでいる。


「本当に久しぶり、元気だった? アレクちゃん」


「うん、それは、もちろん」


「よかった〜心配していたのよ、危険なことばかりするから」


「まぁ、それが私たちだよね」


「それは、そうだけど」


ミーアが俺を振り返り「それでクリス様、今日の要件は?」


「あっ、そうだった、お父さんに合わせてくれる」


「えっ、父にあってくださるんですか?」と両手を合わせるミーア


「いや、君が思っていることと違うから」


「もう‥‥‥」


「王様に報告しなくちゃいけないことがあるんだ、サイラス王のところに案内してくれる?」


「はい、わかりまし‥‥た‥‥クリス様、どうしたんですか?」


ミーアは俺の異変に気がついた。


そう、違うところにアンデッドがいる。


今までアンデットなんて、でたことがないのに、俺も検索魔法と鑑定魔法で初めて知った‥‥‥


その国は、イーノック王国だ。


以前、行ったきり、俺は連絡も取ることもなく時間ばかり経過させている。


イーノック王国には王子だったイアンと、その妹のキャサリンがいる。


どうする?


2箇所同時に、存在することはできない。


しかし、どちらかを任せるしかない‥‥‥


「ご主人さま、行ってください」とアレクが言い出した。


「しかし‥‥‥」


「えっ、何が起きているの?」とミーア


「急いでサイラス皇帝のところへ」


「はい、わかりました、こっちです」というと走り出すが、時間が惜しい。


俺は、ミーアの手を取り、全員でサイラス皇帝がいる部屋に転移してきた。


「うわっ」とサイラス皇帝。


「すいません、非常事態なもので‥‥‥」


「お父様、今、緊急事態が起きているそうです」


「えっ」執務室で数人で書類整理をしていたサイラス皇帝は、いた人を下がらせてくれた。


「それで‥‥‥」


「今、この国の東部に魔物の侵攻があります。」


「何、魔物‥‥‥、それは大変だ、すぐに軍を動かす必要がある」


「ちょっとお待ちください、皇帝」


「な、なんだ?」


「軍で対処できる数ではありません‥‥‥」俺は苦々しくいう。


「なんだって?」


「魔物の数は、およそ、10万‥‥‥」


「10万?」と行って椅子に崩れるように座り込んだ。


「ま、間違いはないのかね?」


「残念ながら」


「そ、そうか、それでは、どう対処したらいいんだ?」


「俺たちの後方支援をしれくれればいいです」


「何、君たちに戦わせて、我々はみているだけということかね」


「はい」


「その理由は?」


「軍では対処できないからです」


「そんなに魔物は強いのかね」


「はっきり言って、そうです」


「俺たちのメンバーなら、戦うことができますが、軍や冒険者のレベルでは‥‥‥」


「命を落としにいくようなもんだというのか?」


「その通りです」


「それで、我々には、後方支援という名目の援護をしてくれと?」


「その通りになります」と俺がいうとサイラス皇帝はちらっとアレクの方を見た。


「アレク君も参加するのかね」


「はい、そうなります。アレクは容姿は10歳ちょっとですが、戦闘能力では、ハイレベルな魔法を使うことができますから」


「‥‥‥そうか、わかった、勇者の判断に任せよう」


「あっ、すいません、俺は違うところに行きます」


「なんだって?」とちょっと怒っている。


「他の場所にアンデットが出現しまして」


「アンデット‥‥‥」


「はい、アンデットです。アンデットは死霊ですから、俺が動くのが適任ですから、ここはアレクたちに任せようと思います」


「アンデットに‥‥魔物か」


「サイラス皇帝、時間がありません」


「おっ、そうだったな、では勇者クリス、君はアンデットを倒したあと、至急、戻り、援護するように」


「それは、無理です」


「どうしてだ」


「たった数体のアンデットに時間はかからないだろう?」


「いいえ、皇帝、アンデットの数が違います」


「じゃ、10体か?」


「いえ、もう、5万のアンデットが出てきています」


「なんだって5万?」


「今はアンデットの数が5万としか言えませんが、増えています」


「なに、5万のアンデット‥‥‥」


「そうお答えになるということは、この世界にもアンデットが?」


「いや、いないと思う、しかし本で読んで知っている」


「本に書いているということは、以前にも出現したことが?」


「いや、空想の物語だったと思う、俺も皇帝として多くの情報を集めているが、アンデットの出現なんて、初めてだと思うぞ」


「アンデットは、死霊ですからね」


「そうだ、非常に厄介だぞ」


「はい、俺も、どう対処しようかと思っていますが、多分、聖属性魔法しかないと思います」


「しかし聖属性魔法は異常に魔力を消費してしまうぞ」


「はい」


「しかも5万のアンデットを聖属性魔法で浄化するとなると、大変だぞ」


「はい」


「それがわかっているのに、いくのか?」


「はい、勇者ですから」


「そうだったな、俺も、その勇者に助けられたから、よくわかっている。いいか、勇者だって後ろを見せて逃げていい時もあるんだぞ」


「はい、わかっているつもりです」


「魔力切れになってしまうと、もう補充する手段はないんだぞ」


「はい」


「5万のアンデットに、どこまで魔力がもつか?」


「やってみなければわかりません」


「そうだが‥‥‥」


「皇帝陛下、時間です」


ゾロゾロとアンデットが空間から出てきている。


今の数は6万‥‥‥


まだまだ、多くなりそうだ。


俺は勇者だからいくのではなく、1人の平和を愛する者としていくんだ。


出会った人たちに普段通り暮らせるように、平和な世の中になるように勇者として願うばかりだけど、むざむざ、命を落としたりしない。


アリシアとの結婚生活を過ごすまで死ぬつもりはない。


「では、皇帝陛下、ここはアレクたちに任せますので」


「‥‥‥わかった。十分、留意するように」


「はい、ありがとうございます」と言って俺は、転移の魔法を使ってアンデットがいる上空に出てきた。



「ミーア、よくお聞き」


「はい、お父様」


「人のために戦うための勇者がいる、勇者だって人なんだ、だから命がある。その命を賭けて戦ってくれる勇者クリスに対して、我々は願うしかない‥‥‥」


「はい、わかっております」


「危険だとわかっていても、それでも稀代の勇者は、行かなければならないと言った」


「はい‥‥‥クリスさまは、そういう方です。だから私は好きなんです。」ミーアが涙を流す。


「‥‥‥我々も国民を守るために、及ばずながら邪魔にならないように後方支援をしよう。アレク君、アデル君、そしてエイミーくん、アイリスくん、そして、セラフィーナ姫、シャーロット姫、申し訳ないが、君たちだけが頼りだ」1人1人の目をみて、皇帝は告げて頭を下げる。


アレク「うん、わかっているよ、おじちゃん、ミーアを笑顔にしたいからね」と言ってミーアに向かってウィンクした。


「アレクちゃん‥‥‥」とミーア


「さぁ、僕たちも時間だ」とアレク


「うん、行きましょう」とアイリス


「うん、行こう」とアデル


「がんばらなけりゃ」とエイミー


「うん、行こう」とセラフィーナ


「はい、クリス様が安心して帰って来られる世の中を作りましょう」とシャーロット。


そして六人は転移していった。


後に残る皇帝とミーアは、慌ただしく部屋を出て、軍に準備をさせに部屋から出ていく。


人がいなくなった部屋には、黒い影の姿が‥‥‥



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


お御読みくださり、ありがとうございます。


まだ2話しかありませんが、以前から書いていた新作を投稿しました、


『ミステリアス舞』っていうタイトルで高校生が主人公で現代もののSFファンタジーです。


よろしくお願いします。


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