後悔

ライラと夜を共にした朝から、俺は暇じゃなかった。


俺は、朝、早くから、ライラ付きの侍女に起こされた。


部屋の侵入までは、無かったが、扉をドンドン叩かれ、まさに叩き起こされた。


普通なら侍女さんはライラの部屋まで入ってきて、ライラを起こすはずなんだけど、この日ばかりは、予想して遠慮したみたいだ。


よかった~


俺がガウンを着て、部屋の鍵を開けると、チラッと奥の方を見て、納得したみたいだけど………


なんだか、にやりとしたような気がしたのは、俺の勘違い?


まぁ、恥ずかしいことは、素通りすれば良い………


侍女さんがライラに用事かと思えば、俺に用だった。


「アルベルト様、会議が始まります、王城の作戦質までお越しください」


「わかりました」と言って、扉を閉める。


俺はライラの寝ているベットに戻り、ライラを揺り起こす。


「ライラ………ライラ、俺、もう行かなきゃ………」


「えっ、こんな朝早くから?」


「うん、そうみたい、作戦会議があるんだって」と言って服を着替える。


ライラも起き上がり、裸の状態からガウンを着る。


その時に、ライラの裸体の全部が見えた………


「キレイだ」と、つい口にする


それを聞いていたライラは、「もう、恥ずかしいじゃない」と顔を赤くする。


そしてガウンを羽織ったライラに近寄り、キスをした。


「行ってくる………」と言ったがライラに纏わりついた手を離したくない。


「アル………気を付けて………」とアイラも俺の体から手を緩めようとしない。


その時、扉の外から、またもや侍女さんが、扉をドンドンと叩く。


二人で顔を見つめて、苦笑しながら、「じゃ」と俺は言い、ライラから離れる。


俺は扉を開ける前に、ライラの顔を見ると、ライラは泣きそうな顔をしている。


「大丈夫だよ、君のもとに戻ってくるよ」


「………ええ、待っているわ」


ライラの悲しそうな、寂しそうな顔が脳裏に焼き付いている。


扉を開けて、待っている侍女さんを先頭に歩き出す。


俺は、去り際のライラの顔ばかり思い出す。


通路を歩いて、階段を下りて、次第に人が多くなる………


両脇を兵士が守る所に来ると、扉が開かれたままだ。


そのまま、中に入ると、皇太子が、俺を見つけて手を振る。


俺は、そのまま、多くの人とぶつかりそうになりながらも、皇太子の元にたどり着く。


そのときに、大きな地響きがする。


「ズドドンッ」


「えっ、早くないですか?」と皇太子に聞いてみる。


「そうなんだ、早朝に動きがあって、もしやと思っていたが、やはりな」


「それで、どうしますか?」


「ああ、こちらの作戦は、昨日、打ち合わせた通りにやる」


「了解です」


「それと、申し訳ないが、君のところの魔法師を分けて欲しい」


「えっ?」


「何分にも人数が足りんのだ」


「では、どのくらい?」


「魔法師の三人ともだ」


「では、魔法師は俺の部隊にはいないと言うことですか?」


「ああ、申し訳ないが」


「いえ、大丈夫です。それで剣士は?」


「それは、つけなければならないだろうから、5名だ」


「………はい、わかりました」


俺を入れて6名で東地区を守る必要があるのか!


作戦室から出て、階段を下りていく。


城の外に出ると、そこには、5名軍人がいた。


そう、俺が、まだ下働きをしていた時に、俺をいじめていた五人が………


「これは、これは、アルベルト大尉………お久しぶりですな」


「お前か!今回の俺の部下は?」


「そうです、わたくし目が、あなた様の部下です、よかったですね、優秀な部下で」


「優秀か、どうかは自分で言うものじゃない」


「おや、おや、そうですか?」と絡んでくる。


どうして、こんな奴らに部隊がなってしまったのか?


何かの策略が働いているのか?


気を付ける必要があるな。


まったく他国から攻撃されているのに、俺の背後を任せる奴もいないのか?


これじゃ、集中して攻撃ができない。


皇太子に文句を言う訳にもいかない。


しかたなく、「では、出発」と号令をかける。


俺が馬を走らせると、すぐには動こうとせず、しばらくして馬を歩かせる。


なんだか、やりずらい………後ろから嫌な圧を感じる。


王都の城門を通りながら、守る兵士に敬礼して通り過ぎる。


そこに、また、大きな大砲の音とともに、城壁の一部がにあたり、崩れ落ちる。


ガルシア帝国の奴らめ、いたぶるように攻撃をしてくる。


今日の夕刻まで、待つことはないみたいだ。


ラッパを吹く音が森から聞こえてくる。


俺たちが、城門を出たとわかったみたいで、城から離れていくと、しばらくして待ち構えていたような進軍が始まった。


戦いが、始まり、白旗を上げることはないと、考えたようだな。


でも、おかしい、そんなにすぐに、初められるか?


あらかじめわかっていたような進軍………


どこかからか情報が洩れている?


う~ん、どこかが変だ。


馬を走らせながら、俺は考えている。


後ろの方をチラッと見ると、ついてきていない。


はるか後方にいる……まるで俺と離れた方が良いみたいに、俺といると攻撃されるみたいに。


でも、証拠がない。


俺は後方の、奴らのことは気にしないで、攻撃に集中する。


もう、進軍がはじまったので、大砲による攻撃はないだろう。


あとは、敵の魔法師と剣士の部隊が相手になる。


しかし、俺は遠くから、魔法の発動をする。


敵に近づくと、魔法師部隊の攻撃があるが、そんな距離まで近づかないで、俺は爆裂の魔法を発動する。


俺の爆裂の魔法は、飛んでいくような魔法じゃない。


右手を伸ばして敵がいる位置を定める。


「はっ」と意気込む。


瞬間、敵の上空に渦を巻くような空気の圧縮が起きる。


ドガァァァァンと地響きがして木々が揺れる。


土煙が上がり遠くは見えないが、索敵魔法で検査すると生存者はいない。


やっと土煙が収まりつつある。


後方を見ると遠くで馬を止めて見ている。


できるだけ、奴らを近づけることが無いようにした方が良いだろう。


俺は行動を別にすることを考えた。


俺一人で行動しよう。


馬にも防御結界魔法をかける。


これで攻撃されても、馬はケガをすることはない。


そして、疲れることが起きても、回復するように回復魔法を自分と馬にかける。


後方の奴らは、置いて馬を走らせる。


全体の検索を確認して、味方と判別がつくようにして、敵を倒していくが、何よりも俺に任された方面を敵から奪還すること。


自分の仕事を優先する必要がある。


敵を追い返すか、倒すこと、それが俺たちの勝機になる。


早くライラの元に戻らなけりゃ。


俺は、ドンドン馬で戦場を走る。


もう少し、俺が戦場に出ていれば、ローリー大尉は死ななくて済んだ。


そのことが、とても残念だ。


と、そのとき莫大な魔法の形跡を察知した。


ん? なんだ、この魔法?


かなり遠くに、数十人の魔法師の集団。


その周りに、魔法師を守るように剣を構える奴ら。


魔法師たちの上に巨大な、ドス黒い魔力を感じる


それが、ドンドン大きくなっていく。


「あれは、やばい………」と声に出してしまうほどに。


俺は、早く馬を走らそうとするが、かなりの距離がある。


馬は疲れていないが、いくら走っても追いつかない。


発見するのが、遅れた。


敵の魔法師団から、ドス黒い魔力の丸い魔法が発射されるが、発射の前には、数人が死んでいく。


残った奴らも、やっとの思いで、発射に至ったみたい。


飛んでくるドス黒い魔力玉。


どうする?


何をしたら、あれを消滅させることができる?


俺は、爆裂魔法を発動させる。


しかし、まともに当たる事はなく、形が歪む程度で、威力も落ちていない。


なんだ、あれは?


近寄るドス黒い魔力玉に、もう一度、爆裂を発動してぶつける。


「爆裂」


とあまりに近くで爆発して、俺は風圧で馬ごと、拭き飛ばされた。


飛ばされたところで、せき込みながら顔を上げる。


土煙がすごくて、まだわからない。


俺は寝転がったまま、見ている。


と、そのとき、グサッと言う痛みを感じる。


俺の背中に強烈な痛み。


動けない………


そのとき、声がした


「これは、これは、隊長、どうしたんです?」と言う、奴らの声。


その時、俺は結界魔法を展開しようとしたが発動しない。


それを察知したように、「隊長は魔力切れらしいぜ」と笑う声。


しまった、あまりにも膨大な的な魔法だったため、二度も大量に魔力を消費する魔法を発動してしまった。


「背中に矢が刺さったままじゃ、しゃべれませんか?」


「‥‥‥」


「どうしたんです?」


「お前ら、どうして、俺を狙う?」


「だって、お前さえいなくなれば、俺たちが報酬をもらえるんですよ」


「なんだって?」


「俺たちは、ガルシア帝国から、報酬をもらうことになっていましてね」


「報酬?」


「そうですよ、あなたが強すぎるから、どうにかして殺すことができないか、と依頼されましてね」


「ちょうど、お前が一人で東に行くのが見えたんで、たぶん、ここを通るだろうと思いましてね、待っていたんですよ」


「貴様ら、ルーファス王国の軍人だろう?」


「そうだが、それが、どうかしたか? 俺たちはルーファス王国の軍人だがよ、お前みたいに出世もできずに、可愛い姫様とも結婚できずに、一生を終えるなんて、馬鹿らしい」


「お前らが努力もせずに、いたからだろう?」


「ええ、俺たちは才能がないもんで、そりゃ、お前は良いよな、魔法の才能があって」


背中の矢が刺さっているので、目が霞んできた。


これは毒矢か。


「やっと気づきましたね。それには毒が塗ってあるんだよ。ギャハハッ」


「‥‥‥」


くそ、聖属性魔法で毒を消すことができるらしいけど、今は、魔力切れと痛みで使う

ことができない


「ええ、お前のことは調べ上げていますよ、毒を消す魔法は、膨大な魔力が必要だってこともね」


「俺たちも、これで、俺たちは、大金持ちだぜ」


「やったな〜」


「あとは、毒で、死ぬのを待つだけだぜ、やったな〜」


俺は頭が朦朧もうろうとして、何もできない………


と、そこに一人の農夫が奴らに連れてこられた。


「早くしろ」と奴らの一人に押されている。


その農夫をなんとか、見ることができたが、ガタガタ震えている。


なんだ? 何をするんだ。


そして、農夫に剣を渡して、これで、こいつを刺せって言っている。


その農夫は、何となく知っている。


何かの時に、会って話をしたことがある人だ。


俺が寝そべっている近くまで、押しやられながら来た農夫は、剣を上に動かす。


「ごめんよ、こうしないと俺の家族が捕まっているんだ」


「………」


何も言わない俺に剣を突き刺す。


俺は剣を刺された痛みと毒で、もうろうとしているが、ライラのことを考えている。


ライラの、あの悲しそうな顔を………


ライラは、このことを予想していたのか?


ラ、ライラ………


どこから集められた魔力か、わからないが、俺はライラの元に転移できた。


もう、当の昔に魔力は切れているはずなのに、転移することができた。



ライラは、俺が部屋に転移した時には、侍女と話をしていた。


突然、俺が出現すると、ライラは「えっ、アル?」と言ってきたが、すぐにも様子がおかしいことがわかると、駆け寄る。


俺はライラに鉛のように重たい手を伸ばして「ラ‥イラ」とつぶやいた。


もう、目はかすんでライラの顔もわからない。


「ライ、ラ………」と小さな声でつぶやく。


「アルッ、どうしたのよ? はっ、矢が背中に………」と俺の手を取る。


侍女が、「姫さま、血が………」


俺の血を見て、矢を抜こうとする。


しかし、侍女に止められた。


侍女は顔を横に振る。


「でも、助けないと………どうすればいいの?」


と俺の手を握ったまま、侍女に詰め寄るが、侍女は顔を横に振って悲しそうな顔をする。


「そんな………、冗談よね ねぇ、アル………」と声が震えている。


ライラの声は聞こえているが、もう動くことができない。


俺の体から熱が奪われていく。


「アルッー」


「目を開けてよ」


温かそうな赤い絨毯の上に横たわる俺の体は冷えていく。


お、俺って、ここで死ぬのかな?


死にたくない、死にたくない………こんなところで死ぬなんて。


嫌だ、いやだ、いやだ、いやだ………


ライラが握ってくれる手が温かい………


「イヤ、イヤよ、アル………目を開けてよ、死なないで」


「ねぇ、アル、目を開けてよ………お願いよ………」


ライラが握っていた俺の掌が、抜け落ちて床に落ちる。


「いやっ ‥‥‥ いやよ、アル、私を置いておかないで‥‥‥うっ‥うっ………うっ」


もう一度、ライラは俺の手を取るけど、もう死人の手になっている。


「アル〜、うっ、うっ」とライラが嗚咽おえつしながら泣き出す。


どれくらい時間がたったのか、侍女が動き出す音で、ライラは、落ち着きた様子を見せていたと思ったら、突然、立ち上がり、侍女が何事かと思う間に引き出しを開けた。


引き出しから取りだされて手に握られていたのは、護身用の剣………


机から数歩歩き、侍女が動けないあっけにとられているうちに護身用の剣を自分の首に切りつける。


ザクッ


大量の血が噴き出して、ライラもふら付きながらアルベルトの近くに倒れる。


「姫さま~」と大声を出す侍女。


「………ア………ル」と手を必死に伸ばそうとするが届かない………そのうちに息絶えてしまった。


ライラの首から大量の血があふれ出す。


侍女はタオルで首元を塞ごうとしたが、無理だった。


「どうして?」


「どうしてライラお嬢様が?」


「どうしてなの?」


「うっ、うっ………神よ、あなたの慈悲はないのですか? こんな幸せだったライラお嬢様が………」


「うっ、うっ、そんなぁー」


死んだライラの手と、俺の手を重ねてくれる。


侍女は涙を流しながら、四つん這いで顔を伏せている。


意気消沈している様子で、突発的にライラの握っていた剣を優しく指か離して、自分の首に切りつける。


ドサッ



~~~~~~~~~~~~~~



数時間たって、傷を負いながらボロボロの体で皇太子が扉を開ける。


目の前に広がる、悲惨な光景を目にする。


扉の所で、皇太子は膝をつく。


やっと、絞り出すように「………な、にが………なにがあったんだ?………」


「逃げたぞ」

「どこに行った?」

「上だ」

「血の跡が階段に続いている」


逃げ込んだ皇太子を追う声。


「いたぞーっ」





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この物語は異世界の物語です、現実世界とは違いますので、その点はご容赦ください。

あくまでもファンタジー小説です。

前世の悪い記憶を持つ小心者の主人公が成長していく物語を書いています。

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