第13話 謎の二人組

「そこまでだ」


 私は突然の声といつまで経ってもやってこない冷気に違和感を覚えて顔を上げる。見上げた先にいたのはさっきの女性だけではなかった。若い男性が女性の後ろから歩いてきている。その男性は固まっている私に向かって手を差し出してきた。


「大丈夫かい? 俺の連れが申し訳ないことをした」


 手を取れということだろうか。この男性はさっきの女性のことを『連れ』だと言った。ついさっきまで私たちと戦っていた人の仲間だと言ったのだ。そんな人の手を取ってもいいのだろうか。固まったまま動かない私を見て、その男性は苦笑いを浮かべた。


 ――信用してもいいの?


「……い! おいっ!」


 私の疑問を遮ったのは月風のくぐもった声だった。そういえば、月風をずっと抱えたままだ。この異様な状況のせいで完全に忘れていた。手を胸から離して月風を開放する。


「無事かっ! いち佳!」


 月風が慌てた様子で私の周りを飛んでいる。どうやら私に外傷がないか確認しているらしい。


「私は大丈夫だよ。むしろ、月風は? 怪我とかしてない?」


 これだけ飛び回っているのなら大丈夫だろうとは思ったが、さっきの戦いは短いながらも激しかった。月風が怪我をしていないとは言い切れないほどに。私は月風自身も気づいていない怪我がないか、彼の体を隈なく見る。特に怪我もないようだ。


 ――無事でよかったぁ。


「あぁ、俺の方も大丈夫だ」


 月風は安堵したように肩の力を抜いた。だが、すぐに神経を尖らせて私から視線を外す。彼の視線の先には若い男性と綺麗な女性がいる。彼らも私たちのことを見ていた。場には緊張感が走っている。このままでは、またさっきのように戦闘が始まるかもしれない。その考えに私が身をこわばらせると男性がふっと息を吐いた。


「俺たちに戦う意思はないよ。……さっきは本当にすまなかった」


 そう言うと男性は私たちに頭を下げた。自分よりも年上に見える男性に頭を下げられるのは思った以上に居心地が悪い。しかし、私たちはあと一歩のところで殺されていたかもしれないのだ。簡単に頭を上げてなんて言えるだろうか。見れば、女性の方は拗ねたような顔をしていたが、男性の指示を待つようにその背を見ている。男性の言った通り、今の彼らに戦う意思はないらしい。私は月風と視線を合わせてから、男性に向かって口を開いた。


「とりあえず、頭、上げてください。私たち、状況が掴めてないので説明してもらってもいいですか?」


 まだ信用したわけではない。その警戒心からか、刺刺しい口調になってしまった。しかし、男性は気にした様子もなく顔を上げた。


「ありがとう。俺の名前は東条とうじょう久弥ひさや。彼女はゆきの」


 東条と名乗った男性が自己紹介を終えたので、私たちも自己紹介をと口を開こうとしたら月風に止められた。月風は2人の思惑を測るように視線を送り続けている。そんな月風を見て、東条さんは困ったように笑った。


「君たちと敵対する気はないと言ったはずだよ」

「本当に?」

「誓おう」


 短いやり取りの後、月風は観念したように緊張をほどいた。


「月風。こっちはいち佳」


 私が自分で言う前に、月風がぶっきらぼうに自己紹介を済ませてしまった。しかし、これでやっと状況を理解できる。聞きたいことも分からないことも山ほどあるのだ。


「月風、いち佳さん。俺はこの地域の守護をしている陰陽師なんだ」


 この突飛な状況で、さらに突飛なことを言われて私は気が遠くなりそうだった。

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