第9話 これからについて

「じゃあ、あのミサンガが媒体だった?」


 私の疑問に月風が思案顔で答えた。


「可能性は高いな。今のところ、それが怪しすぎるってのもあるが」


 私が今朝拾ったミサンガは媒体かもしれない。だが、契約には契約を結ぶ両者の合意が不可欠だと月風は言った。ならば、ミサンガは媒体になることなんてできないはずだ。


 ――けど、実際に私と月風は契約出来ちゃったし……。


「あー、分かんない!」


 結局、どうして私たちが契約出来たのかはどんなに考えても分からなかった。完全にお手上げである。テーブルに座っていた月風が溜息をついて顔を上げた。


「この際、どうして契約出来たのかどうだっていい。問題は契約の解除の方だ」


 私は月風の言葉にハッとする。契約方法なんてわからなくても、契約を解除することはできるのだ。だが――


「媒体がないと解除できないんでしょ?そこはどうするの?」


 また話が戻ってきている気がする。やはり、媒体がないことには話が進まないのだ。ある意味では媒体さえあれば全てが片付くともいえる。


「……探すしかないね」

「それしかないな」


 月風は私の問いの答えを持っていなかった。もちろん、私も持っていない。沈黙の末、私たちはここの探し物よりも難易度が高い探し物をすることになった。


「とりあえず明日から、月風と会った山道を調べてみよ。この契約、解除しないといけないし」

「まずはそれでいいが、そのミサンガってのは消えたんだろ?そこを調べても出てこなきゃ、もう手掛かりもないし厳しそうだな」


 出てくるかもしれないし、とは言えなかった。だって、私も月風と同じことを考えていたから。山道を調べてもミサンガが出てこなかったら、私たちはずっとこのままなんだろうか。


「ねぇ、月風。この契約を結んでから、私はまだ妖怪が見えるようになったくらいしか違いが分かんないんだけど、月風は何が変わったの?」


 月風はテーブルからふわりと浮き上がると空中で胡坐をかいた。そして私に見せるように自分の掌を広げた。その掌は広がっていた状態から指を三本立てた状態に変わる。


「いいか、俺たち妖が契約を結んで変わることは3つある。まずは移動の制限。主である人間のそばから離れられなくなる。これはお前も今日一日俺と一緒にいたから分かるだろ」


 確かに今朝月風は私が山道から帰るときに『離れられない』と言っていた。そもそも、契約に縛られていないのならば月風が私についてくることなんてないだろう。


「二つ目は主を害することができなくなる。けどま、普通は合意の上で契約してるんだから、わざわざ主に攻撃なんてしないだろ」


 じゃあ私が月風に攻撃されることは絶対にないというわけか。……月風が私への攻撃を考えるほど、私たちの仲が険悪になる方こそ問題なのでは?


「最後が妖力の共有。契約をしてから俺の妖力とお前の妖力は統合された。だから、今お前は人間にしては妖力が強いし、俺もおまえの分の妖力が増えてる状態だ。ただ、あくまで共有だ。俺が妖力を使えばお前の妖力も減る」


 妖力については説明されてもあまりピンとこなかった。そもそも、妖力って使うものだったの?


「月風、妖力を使うってどういうこと?」


 あぁと言った月風が私の横の方に移動した。そして、指をパチンと鳴らす。


「それならこんな風にな」


 それ以降の月風の言葉なんて耳に入ってこなかった。だって今、私の横にいるのは――


「大きくなってる!?」


 私と同じくらいの大きさになった月風だった。

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