第43話 写真部 6/18(金)放課後
「これだよ。」
戸棚からA3サイズくらいの茶封筒を三谷くんが出してきた。
写真部は水曜日と金曜日の週二回、活動しているらしい。活動場所は一角に暗室を作って貰った美術室。これまた不定期活動の美術部と同居しているらしい。写真部の部長は同じクラスの三谷くんなので、幸太朗が話を通してくれていて放課後に2人で訪れたところだ。
「これは見る場合は手袋でもした方が良いかの?」
と使い捨てビニール手袋をポケットから出しながらいうと、三谷くんはニヤッとしながら
「さすが科学部だな。気にしてるんだ。まあ、俺もいろいろ気になって封筒に入れといたんだよ。脅迫状くっついたまんまだからな。」
と言った。浅黒くて、てっきりサッカー部かと見間違う容貌の三谷くんはやっぱりサッカー少年で、高校では勉強に専念したくてゆるい写真部にいるとか。写真もかなり好きらしく教頭と時々撮影ドライブに行っているらしい。
「こっこれは!」
くだんの心霊写真とはA1高校の文化祭の様子なのだが、ところどころ人間の身体が透け、ありえない所に顔らしきものが見えるという随分がっつりとしたものだった。セロハンテープで普通のコピー用紙に赤い文字(いわゆるホラーフォント的な字体)で「文化祭めちゃくちゃに呪ってやる」と書かれたものが額縁の下に貼り付けられていた。
「結構しっかり作りました的な心霊写真じゃないか!」
と感想を述べると三谷くんは、
「だろ。しっかり作りました、だ。」
と答えてきた。
「というと、これは」
「がっつり合成写真。しかも元ネタはこれ。」
三谷くんは引き出しから1枚のA1高校のパンフレットを出してきた。そこには心霊写真のもとになった文化祭の様子の普通の写真が載っていた。
「これはできたばかりの今年のパンフで、この写真はクラスTシャツから昨年の文化祭の二年生のクラス企画みたいだ。」
「失礼だが、写真部員が作ったというわけではないのか?」
それだけは確認をしなければならなかった。
「写真部員は俺を入れて現在5名。如月さんは今年の写真部の作品展を見た?」
「すまない。見てない。」
あまり今年は見て回らない文化祭だったなと思い出してると、
「写真部は鉄道研究部に片足突っ込んでる。」
今まで黙ってた幸太朗が口を挟んできた。三谷くんはうんうんうなづきながら、写真部とラベルが貼られたノートパソコンの画面をこちらに見せてくれた。それは文化祭の作品展の動画であり、額縁に入った電車の写真とジオラマが展示されている様子だった。
「撮り鉄…」
思わず呟くと、
「まあ、そうなっちゃうかなぁ。うちの高校には鉄道研究部がない。我々の燻っていた鉄道への秘めやかな愛情を教頭先生が救ってくれたわけだ。」
要するに教頭も…。
「だからこんな品の無い写真、しかも100均のペラペラの額縁のパソコンで印刷した写真と呼べないよーな紙切れを北斗と快速富士の間に飾るわけないんだよ!!」
三谷くんの怒号頂きました。あれ、サッカー少年だと言ってなかったか?それは所謂隠れ蓑で実は鉄道少年…
怒鳴って少し落ち着いた三谷くんが、
「これはヒガハスというJR東大宮駅と蓮田駅間の有名な撮影スポットに撮影旅行に行ったときに…ちょっと待って…」
パソコンをいじりながら詳細な撮影旅行の説明と電車とカメラへの愛を語り出したため、相槌をうちながら聞いている多少は電車が好きらしい幸太朗を残してそっと私は美術室を後にした。
幸太朗にはSNSで指示を出す。
『先程の文化祭の展示の動画もらってきておけ。あとは任せた。』
もう17時。下校時間だ。
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