第29話 蟹江先輩の工夫

 音楽室の鍵を部長が持っている事があるのは休日の練習やコンクール前など必要と思われる時なのだが、蟹江先輩が1年の時の部長はフルートパートで自宅から楽器を持参するものだから、早く来ず、鍵を度々忘れてくるなど自分本位な役立たずだったらしい(蟹江先輩談)。1人で運べない楽器が多いパーカスはコンクールの時など運搬に時間がかかる。そのためかなりの迷惑を被ったこうむったらしい。


 パーカスから部長を出すことが出来ず、キレた蟹江先輩は密かに侵入経路を模索した。それが音楽室のドアに嵌め込まれているガラスを外すという荒業あらわざだった。強力吸盤フックを2つつけてそっとズラすとガラスを割らずにスムーズに外せ、その穴から手を突っ込んで鍵を中から開けるという手法だ。コンクール前は大型の楽器(マリンバ、ティンパニ等)は楽器庫から出してある。だから、音楽室にさえ入れれば良いわけだ。今回の事件も、朝は音楽室だけで用が足りている。


 蟹江先輩は引退する時、現在三年生の当時のパーカスのリーダーに困った時に使うように伝授した。その三年生は退部する時にきちんと現二年生のパーカスのリーダーにも伝授していた。吸盤フックの隠し場所は吹奏楽部専用下駄箱に何気なく置かれてる缶の菓子箱の中。それが、今回、悪用されたのだ。


「しかし、よく自供したね。証拠とか突きつけたの?」


細田がうんうんとうなづきながら聞いてきた。


「まあ、楽器ケースの持ち手は、化学班が指紋調査して、吹奏楽部員以外の指紋が出てこないし、手袋を使った形跡も、拭いた形跡もなかったからな。本人達が自分の指紋が出る分には怪しまれないと堂々とやったんだろう。まあ、指紋までとられるとは思わなかったんだろうし。あとは盗聴器を仕掛けといたら、蟹江先輩が来た日に二年生が怯えておびえて相談なんてし始めたから、乗り込んでやった。」


と言うと、細田はギョッとして


「盗聴器?乗り込む?そんなドラマ的な事したの?どのメンツで?」


何から何まで知らなくては気がすまないらしい。仕方ない。あの日は…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る