第30話 如月の回想 18話の続き
「はーい。外部の蟹江でーす。お探しのアレとはコレですかね。」
蟹江先輩は両手に一つずつ強力吸盤フックを持ち、音楽室に残っていた吹奏楽部二年生達に見せつけた。後ろには私と佐田、間中、戸村先輩が続く。吹奏楽部員は呆然として黙ったままだった。
「話を聞くにお前らの犯行で間違い無いな。ここにいる奴ら以外に関与者いるのか?言え!全く俺の発明をくだらない事に使いやがって田村。なんか弁明ないんかい?あーあー外部の蟹江には話せませんか!」
蟹江先輩はかなりのご立腹らしく、口は止まらないし、田村というパーカスの二年生を睨みつけていた。これは止めないとまずいかもしれない。目に見えて彼女は震えていた。
「はいはい。蟹ちゃん。熱くなっちゃダメ。こっちで、俺らは如月ちゃんの保護者って感じで、参観しよう。ねっ。」
戸村先輩がズルズルと蟹江先輩を引きづり間中が隅に用意したパイプ椅子に蟹江先輩を座らせ、隣に自分も座った。助かった。
「如月ちゃん、蟹ちゃんと俺をパパ、ママだと思って。ね。きちんと解決して。」
この場合、蟹江先輩がパパで戸村先輩がママか。うっ。
「戸村先輩!心強いです!」
心にもない事を言ってから、吹奏楽部員達に向き直った。
「科学部部長の如月です。今回、吹奏楽部の物損、盗難事件を調べさせて頂きました。先程の皆様の会話は偶然、立ち聞きしてしまいましたが、録音させて頂いております。あとは楽器の持ち手に吹奏楽部員以外の指紋、手袋の跡などがなかったこと。音楽室への侵入方法を知っていた点などから吹奏楽部二年生全員による犯行だと考え、校長に報告致しますが、何か弁明でもありますか?ああ、一応、濡れ衣をかけられた佐田に謝ってもらえますかね?木原さん」
幸太朗をみやると物騒な顔をして木原さんを睨んでいた。
ほら、ほら、と他の部員達に前に出されて、木原さんは気まずそうに下を向いたままそそくさと
「ごめんなさい。」
とだけ言った。
「あの、如月さん、一つだけお願いがあります。」
トランペットの岩田さんがおずおずと声をあげた。
「はい。」
一応、聞く耳を持つと、
「報告する際にこれを付けて下さい。もしバレた時はと思って用意していました。」
彼女が差し出してきたのは封筒だった。
「これは?」
開けずに尋ねると
「現部長の門田部長のイジメについて、私達がやらされた事などを書いたものです。今、部長のイジメのターゲットがパーカスの田村さんなんです。私達、これ以上私達の代で退部者を出したくなかったんです。部長が疑われれば良いと思ってやりました。瑛里が部長の後に現れて犯人扱いして居づらくさせるだけのはずでした。まさか、あの日に限って副部長と2人で音楽室を開けるなんて。副部長がテキパキと働いてこんな大問題にするとは思って無かったんです。この手紙を動機として校長先生に渡して下さい。お願いします。」
岩田さんの隣で、パーカスの田村さんは座りこんでぼろぼろと泣いていた。
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