第19話  5/31(月)放課後 男子高校生の触り心地

「如月さん!本当にいいんですか?」


 理科室2数学班に今日はお客がいる。さらさらストレートハーフアップの黒目パッチリthe清楚系女子城内さんだ。他に体操服半袖姿の幸太朗と間中が生贄いけにえとして待機していた。


「男子の肩とか腕とか手のひらとかの骨張ってる所、触っていいんですね!しかも私、痴女だって噂たちませんね?ついでに筋肉確認しても?」


 彼女は痴女にされるのが心配らしい。


「大丈夫だ。こちらも忘れたいであろう事を聞くんだ。それ相応の対価が必要であろう。」


 うむうむとうなづく私を幸太朗が睨んでる気がするが、気にすまい。


「しかし間中はいるか?幸太朗だけで良いと思ったのだが、志願してきたのだ。」


 何故か、自分も身を捧げると言って間中が体操服で現れていた。


「あー間中さんは細い感じが良いですね。骨太の幸太朗さんとの違いを堪能させて頂きます!」


 それから、実験机の上に寝かせた2人の肩やら腕やら鎖骨やら手やらを城内さんが触り始めた。初めは羞恥なのか顔が赤かった2人だが、次第に変なうめき声をあげ白くなっていた。


烏口突起うこうとっきはここと、さすが男子。」


「イダっウグっ」


「えっ、間中さん、長橈側手根伸筋ちょうとうそくしゅこんしんきん短橈側手根伸筋たんとうそくしゅこんしんきんが綺麗に分かれて、見やすい!」


「イヅ」


「素敵!佐田さんの棘上筋きょくじょうきんが!」


「ギェ」



 疲れたのかそのまま机に横たわったままの男子高校生2名を放置し、ご機嫌に顔を上気させた城内さんはとってもご機嫌じゃない話を語ってくれた。


「今の、吹奏楽部部長は問題ありです。指導に来てくださった卒業生に私が褒められた途端に嫌がらせをはじめましてね、」


 その嫌がらせとは先輩風を吹かせながらわざと間違った音楽解釈を押し付けて吹かせる。(簡単に言えば、軽くと書かれてる表記を強くと言うような)ピアノを習っていた城内さんにとっては分かるだけに辛かったそうだ。リードミスが聞こえると全て城内さんのミスだと言って責める。練習が足らないといって何時間も1人だけ廊下に出して吹かせる。合奏の時も締め出して廊下で聞くようにと言う。そのうちに城内さんが腱鞘炎を患うようになり湿布を貼って部活に出るとそれをみっともない、当て付けだと言って剥がすように命令する。手の痛みと言葉責め、部内で孤立するように仕向けられた事もあり過敏性腸症候群に城内さんはなってしまったそうだ。その上、風邪を拗らせ、小児喘息を再発させ、とうとう親が部活を辞めるようにと言ったらしい。


「一応、スクールカウンセラーさんにも相談したんです。そしたらふらっと線路に飛び込んで自殺する寸前だって言われました。実際、私の方がいつあの先輩を窓から突き落としてやろうかって思うくらい物騒ではありましたね。」


 辞めた後は、精神的にやられた事を聞きつつけたらしく、今度は部活の話や嫌味を同クラスの吹部の子達が近くで言い続けるという嫌がらせが行われたらしい。


「これはね、同じクラスだった安積さんが気づいて怒ってくれて治ったんです。私への制裁はそれで終わりました。私がたまたま先輩と合わなかっただけ嫌われてただけだと思うかもしれませんが、先輩は私の次はトランペットの子、フルートの子と攻撃していったと聞いてます。何人か辞めましたよね。誰かを攻撃してないと気がすまないみたいなんです。」


 いつのまにか、幸太朗、間中達も真剣な顔になり机の上に座って話を聞いていた。ぞっとする話だった。


「私達、辞めた人間が吹部に嫌がらせをしたんじゃないかって噂されているの知ってます。でも、私スクールカウンセラーに言われたんです。逃げなさいって。その先輩が変わる事はない。だからって自分が辞めたら、別の人が攻撃されるかもしれないって私が我慢することでもない。気にするなって。できるだけ吹部には近寄らないようにしているんです。ましてや辞めた人となんか接触もしませんよ。私が最初に分かってて逃げたんですから。辞めた人は私のように吹奏楽部を忘れたいし出来るだけ関わりたく無い状態のはずです。だから、今回の事件は逃げられない人がやったんじゃないかって私は思ってます。」



※リードミスとは演奏者の予測不能な時にピッとかキャッといった不快な音が出てしまうものです。楽器の不具合、リードに問題があったり、咥え方、息の出し方、指の押さえ方などにもよるとか。

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