第18話 バイバイナーの後に

 細田は急にイケメンに戻ると


「数学班の部屋空いてる?雛ちゃんの教育に悪い話だからここは無理。」


「いいぞ、行くか」 


 理科室2の鍵を見せると、


「雛ちゃん、ばいばい」


「バイバイバイバイナー」


「雛ちゃん?バイバイナー?それ坂本先生の真似?似すぎだよ?毎日言われてるの?」


 鳥との会話が永遠に続きそうなので、無視して出ると慌てて追いかけてくるようだった。


「バスケ部で吹奏楽部の噂を耳にしたんだ。」


 兼部も良いものだ。思わぬ所から噂とは。うなづいて先をうながすと、


「クラリネットの先輩が、後輩、俺達の同級生をいじめて、まあ、パワハラだな。体調崩させるわ、過剰な練習をさせて手を痛めさせたりして退部に追い込んだとか。で、退部した奴を更に監視したり浮かび上がらないように同級生達にいじめさせたって話。その子の次のターゲットのトランペットの子は退学したとか。フルートの子は学校備品のフルートを壊されて、買えないから、退部に追い込まれたとか。気をつけないと平気で後輩達の荷物も漁って盗むって話だ。」


「なんか、嫌な話だな。出所は確かなのか?」


 クラリネットの先輩とはあの部長だろうか。それとも既に退部した三年生だろうかと考えながら、信憑性しんぴょうせいを問うと、


「安積って知ってるか?文系クラスの。バスケ部の部長なんだが。最初に辞めたクラリネットの子が安積の片想いの相手なんだ。吹奏楽部の事件がもう広まっててバスケ部内でもちょっとした憶測が飛び交っててさ。昨年卒業した吹部男子とバスケ部の柿岡の兄が友人だとか、柿岡の元カノが吹奏楽部とかいろいろ」


 安積さんは知っている。バスケ部で細田と人気を分けるイケメンらしい。ただ声は細田に劣るし、愛想が悪く、冷たいと聞いた事がある。柿岡は見たことある。どうでも良いやつと勝手に脳内保存されている。一昨日幸太朗が出してくれた途中退部者名簿を出してみた。


「細田、途中退部者が今年の2年だけ、6名もいるんだ。多くないか?3年になって辞めるのはわかるけど、1年生のうちに5人、この

 4月に1人辞めている。前の代まで遡ってさかのぼってみたけど、あってもせいぜい2、3人なんだ。」


「確かに。バスケ部は体験入部のうちなら、筋トレに耐えられなくて辞める奴いるけど、そっから先は、そうだな。多くて2、3人だ。昨日の吹奏楽部の噂話はその辞めさせられた奴が腹いせに結託してやったんじゃないかっていうものだったんだ。それ聞いて安積が怒ってな。」


 いや、困ったよ。と細田は思い出したようにため息をついた。


「なんで、安積さんが、怒るのだ?」


城内きうちさんが、そんな事するか!って激怒さ。まあ、それで、辞めた奴を更に追い込んだとか手を痛めさせたってなディープな話まで分かっちゃったんだ。」


「なるほどな。城内さんか。話聞いてみるか。」


「いや、待てよ。スクールカウンセラーにまで彼女はかかってるって話だ。デリケートだ。簡単に手を出すなよ。俺は無理だぞ。安積に殺される。」


「多分、幸太朗がイケる。」


「幸太朗?」


「城内さんは骨フェチだ。前に体育の合同授業で、話したことある。幸太朗の肩が好きらしい。」






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