第6話  細田に連絡

 そう言えば、私は二年生にして科学部部長だ。今、5月。三年生の引退時期が部活によりけりで部長の学年は流動的だ。科学部の先輩達はまだ在籍しているが、前部長の富田先輩が、


「科学部部長は数学班から出すことになっているんだ。部室の主だからな。平原先輩の後、僕が預かってたけど、やはりちゃんと育ったんだから数学班に戻さないと」


と言って4月末の書類に私を部長として提出してしまったのだ。ついでに全部二年生でと会計は間中が務め副部長は細田だ。


 細田は細田圭吾といい、バスケ部と兼部しておりほとんど科学部には現れない。何故副部長かと言うとただイケメンだからだ。人寄せパンダである。パンダの様に奴が居さえすれば人がくるのだ。全て兼ね備えた男が存在するのだと感嘆を覚えるほどだが奴にも弱点はある。  

 こんなメッセージを入れればイチコロだ。


『雛ちゃんに「ケイゴ嫌い」って言葉を教えて欲しくなかったら明日の朝7時半から始業まで、昼休み、放課後を科学部に捧げよ。』


 雛ちゃんとは細田のセキセイインコである。パステルカラーレインボーで大変可愛らしいインコだ。高校合格祝いに買って貰ったらしいのだが、妹が鳥アレルギーを発症してしまい、彼は1年の時同じクラスでたまたま隣の席にいた私に相談してきた。そこで科学部の生物班に細田を属させ、理科室3の準備室(生物科準備室)で飼えるように私が手配してやったのだ。そんな彼の夢は国立大学に現役で合格し雛ちゃんと一緒にアパートを借りる事である。雛ちゃんをダシにすれば大抵の頼みはきいてくれる。


『明日の件は了解。』

『で何すんの?俺』


細田と話が出来るというだけでうっかりなんでも話してしまう女子達は多い。彼はイケメンとイケボを持ってして化けるのがうまいという実に器用な男なのだ。

だから細田と面談。ネーミングセンスは我ながら最高だ。


 あとは細田のために資料を作成しておけば良いだろう。


 理科室1(物理系)にはマジックミラーが理科室と準備室の間のドアの窓ガラスにはめられているが、これは意外と知られていない。私と幸太朗は準備室に隠れ、面談を観察するつもりだ。もちろん、ボイスレコーダーと隠しカメラも用意だ。全員から話を聞けば吹奏楽部の状態がよく分かるはずだ。まずはそこからだ。

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