第75話:逆子
「マリア、産婆が言っているように、子供が逆さまになってしまった。
だが安心しろ、それほど珍しい事ではない。
この時期の子供な、お腹の中でよく動くから、くるくると回るのだ。
元に戻らず、十日ほどこのままだったら、俺が治してあげるから、安心しろ」
「はい、エドアルドを信じていますから、心配などしていません」
そう言うマリアだが、顔が真っ青になっている。
だが、決して嘘を言っているわけではない。
本当に胎児は妊娠三十週、いや、長く見て三十二週までは逆子でも問題はない。
それを過ぎたとしても、前世なら帝王切開という方法があった。
だが今生では、外科的手術など夢のまた夢だ。
ローマ帝国艦隊を壊滅させ、ローマ人を全て海の藻屑にして、感染症不安を解消したと思ったら、次は逆子かよ。
今生でやれる事と言ったら、体の左側を下にして左足を伸ばし、右足をくの字に曲げて重ねる『シムスの体位』のなのだが、これには大きな問題がある。
逆子の退治の姿勢がどちら向きになっているかで、逆にしなければいけないのだ。
胎児がどちらを向いているのかが俺に分かればいいのだが、全く分からない。
前世なら、産婦人科の先生が超音波で調べてくれるのだろうが、ない物ねだりをしてもしかたがないな。
「産婆、子供がどちらを向いているか分かるか」
「閣下、無理を言われないでください、そのような事は分かりません」
やはり熟練の産婆でも分からないか、糞、俺にどうしろというのだ。
もう一つの方法は、仰向けになって、おしりを一番高くなるように、おしりと腰にクッションを挟む『骨盤高位』の姿勢を、朝晩二回、五分から十五分行う事だ。
この方法ならば胎児に姿勢は関係ないし、刺激が強すぎて流産をしてしまう危険がないと思うが、確信があるわけではない。
だが俺は知識として知っいるだけで、実体験したわけでも施術したわけでもない。
そもそも逆子になる原因が一つではないのだ。
前置胎盤、へその緒が胎児に巻き付いている、羊水量の減少、子宮筋腫、ガスが溜まってお腹が張りやすい、双子、骨盤が狭い、胎児の膝が伸び切っている、冷え、精神的ストレス、肉体的ストレスなど多岐にわたっている。
子宮、羊膜のなかが狭かったり、胎児が元気過ぎたりする事が原因でなければ、助けてあげたくても助けられないのだ。
だが、俺が不安や恐怖を表情に出してしまったら、マリアがもっと不安を感じてしまい、羊膜の中が狭くなってしまう。
『骨盤高位』をとって、少しでも胎児が自分で回転できるようにしているというのに、何の意味もなくなってしまう。
ここは少しでもマリアの不安を取り除かなければいけない。
「マリア、今日から俺がずっと側にいてお世話をするよ。
体を冷やさないように、不安を感じないように、ずっと側にいるからね」
「はい、エドアルド。
エドアルドが側にいてくれたら、わたくしも安心でいますわ」
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