第33話:聞き合わせ
ヤコポ・ルピリウス・ロッシは悪い相手ではない。
今までの求婚者の中では一番マシな男だ。
いや、満点とは言えないが、及第点を与えてもいい男だ。
徐々に力を落としているとはいえ、強大なローマ帝国の貴族で、本人も家も氏族も力を持っているだけでなく、民に対する接し方も悪くない。
絶対専制君主制に移行したローマ帝国では、皇族・貴族・騎士・自由民・奴隷の厳しい身分制度となっている。
このような身分制度、ロマリオ王国時代もジェノバ公国になってからも同じなので、一概に非難する事はできない。
だが自由民や奴隷を余りにも酷い扱いをするような貴族は、マリアお嬢様の結婚相手に相応しくない。
その点ルピリウス氏族は、自由民だけでなく奴隷も護るべき相手と考えている。
皇帝直轄領や他の総督領では、自由民や奴隷は搾取するだけの存在だが、ロッシ家はルピリウス氏族が支配している総督領や貴族家直轄領は、自由民や奴隷に対しても最低限の権利を与えている。
ヤコポの過去の言動も、古代ローマの共和制を彷彿とさせる、ロッシ家やルピリウス氏族の伝統にのっとっている。
まあ、この世界は俺の知る歴史とは全く違うから、勘違いや調査不足の可能性もあるから、断言などできないから、これからも調査が大切だ。
俺が一番気にしなければいけないのは前世とこの世界の違いではなく、ヤコポがマリアお嬢様に相応しいかどうかだ。
ヤコポがもっとカルロ寄りだったらよかったのだが、どちらかと言えば俺に近い策士だと言える。
カルロほど脳筋では困るのだが、策士よりは義勇を重んじる騎士の方がいい。
他人に陥れられてマリアお嬢様を危険にさらすようでは困るが、卑怯な手を使ってマリアお嬢様の名声を穢すのが一番困る。
「ヤコポの女性関係はどうなっている。
正式な結婚はしていないようだが、愛人の数と親密度は調べられたのか。
表に出ている子供はいないようだが、隠し子はいないだろうな」
ローマ帝国には以前からそれなりの数の偵察員を送り込んであった。
元々この国の支配者で、今もこの国を狙う仮想敵国だから当然だ。
だが、基本戦略が攻め込んでくる海軍を迎え討つ事だったから、偵察員は海軍関係者を中心に送り込んであった。
これほど有力なマリアお嬢様の婚約者候補が現れた以上、追加で送った偵察員や以前からの偵察員だけでは人手が少な過ぎる。
「追加の偵察員を送り込む。
偵察員だけではなく、商人も送り込め。
ありとあらゆる手段でヤコポの情報を集めるのだ
手が空いている俺の親衛隊や近衛隊もローマ帝国に送れ。
情報を集めるためなら金も人員を惜しむな」
「「「「「はっ」」」」」
これで今までよりも精度のいい情報が数多く集まるだろう。
手を差し伸べた孤児の中には、俺に忠誠を誓ってくれた者も多い。
彼らには、実力と忠誠心にあわせて、十段階ある魔力増強法の第一段階や第二段階を教えている。
魔力を増強できた者の中には俺のために日陰者の偵察員になってくれた者もいる。
彼らなら敵地に送っても簡単に見つからないし、殺される事もない。
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