第32話:事前調査

「エドアルド、母上とグレタから聞けと言われているのだが、マリア公太女殿下は誰と結婚するのだ。

 お前は誰と結婚するのだ」


「相変わらず駆け引きも何もないな、カルロ」


「ふん、俺にそのような事ができるはずがないだろう。

 変に探ろうとしたら、今まで築いてきた信用すら失うと母上にもグレタにも耳が痛くなるほど言われている。

 それで、どうなのだ、誰と結婚するのだ、お前達兄妹は」


「俺はその時に必要な相手と婚約する。

 そう言えばソニア夫人とグレタ嬢は理解してくれる」


「エドアルド、お前は母上とグレタを買いかぶり過ぎだ。

 二人ともお前の考えを完璧に理解する事はできないと言っている。

 面倒がらずにちゃんと名前を言え、名前を」


「分かった、が、いちいち家名を告げるのは面倒だ。

 俺は申し込みのあった全ての王侯貴族令嬢と結婚する。

 全ての令嬢を、序列をつける事なく妻に迎える。

 それでも好いという王侯貴族とだけ結婚する。

 難色を示す王侯貴族とは縁を結ばない。

 そうソニア夫人とグレタ嬢に伝えてくれ」


「分かった、そう伝えよう。

 それで、マリア公太女殿下は誰と結婚するのだ」


「……とても残念なのだが、まだ一人も候補がいない。

 マリアお嬢様に相応しい王子も公子も騎士もいない。

 情けなさすぎて文句を言う気にもなれん」


「エドアルド、お前は自分以上の漢を探しているようだが、そんな奴は、この大陸のどこを探してもいないぞ」


「そんはずはない、この広い大陸に一人くらいは誇り高い騎士がいるはずだ。

 なにも智謀百出の軍師を探しているわけではない。

 カルロのような万夫不当の豪傑を探しているわけでもない。

 誇り高い騎士道精神を持った漢を探しているだけだ」


「なあ、エドアルド、お前よりも誇り高い騎士など、この大陸のどこを探してもいないのだぞ、分かっているのか」


「馬鹿な事を言うな、俺のどこが誇り高い騎士だというのだ。

 謀略で次々と敵を陥れるような俺が誇り高い騎士であるはずがないだろう」


「俺に難しい話などできんし、エドアルドを納得させられる言葉も思い浮かばん。

 だが、お前以上の騎士がいないとだけは断言できるぞ」


「そう言ってくれるのはうれしいが、俺は光り輝く理想の騎士ではないのだ。

 聖女であるマリアお嬢様や、配偶者となるべく聖騎士のために、汚れ仕事をする謀略の臣でしかないのだ」


「うっがあああああ、もういい、もうそんな難しい話など聞きたくない。

 マリア公太女殿下の配偶者となるべき相手は決まっていない。

 それだけ聞ければ十分だ、もう俺は帰る。

 明日の総攻撃でこの国の敵対勢力は全て叩き潰せる。

 エドアルドは次の相手を指示してくれ。

 あまり待たせるなよ、待たしたら決闘を申し込むからな」


「それならば大丈夫だ、もう相手は決まっているし、艦隊も用意してある。

 明日城を落としたら、祝勝会の後でシチリア島に向かってもらう」

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