第9話:派兵

「お前達には危険な任務をさせてしまう事になるが、これも誇り高きアウレリウス・ジェノバ公爵家の家臣たる者の務めだ。

 もしこのような任務は騎士や徒士の役目ではないと思うのなら、何時でも公爵家を辞めてくれて構わないから、遠慮なく申し出てくれ」


「情けない事を申されないでください、エドアルド様。

 我ら騎士団一同、この任務を与えられた事を心から誇りに思っております」


 アウレリウス・ジェノバ公爵家騎士団の騎士隊長達が即答してくれた。


「その通りでございます、エドアルド様。

 我ら海軍もこの度の任務を与えられた事を心から誇りに思っております」


 アウレリウス・ジェノバ公爵家海軍の艦長や艇長も即答してくれた。

 今回彼らに命じた任務は、普通の貴族家には絶対にない任務だ。

 王家や他の貴族家から逃げてくる民を助けるために戦うなど、これまでのこの国の考え方からは絶対にあり得ない事だった。

 この国一般的な王侯貴族なら、敵対する王侯貴族共の領地に行くときは、略奪や破壊を行う時と相場は決まっていた。


 それが今回はまったく逆で、逃げてくる民を助けに行くのだ。

 そうなのだ、捕らえるのではなく、助けに行くのだ。

 一般的な王侯貴族なら、民を殺さずに捕らえたら奴隷にする

 自分達で使役する場合もあれば、売り払って金にする場合もある。

 敵対する王侯貴族の生産力を低下させるだけでなく、自らの資金とする。

 それがこの国の王侯貴族が持っている常識だ。


 アウレリウス・ジェノバ公爵家はその常識を変えるのだ。

 閣下も奥様もお嬢様も、この国の一般的な王侯貴族とは違う高潔な方々だ。

 民は支配するものではなく、護り教え育てる者だと考えられている。

 俺はその公爵家の考えのお陰で、今こうして生きていられるのだ。

 公爵閣下に助けていただいていなければ、まだ今ほどの実力を得ていなかった俺は、腐った王侯貴族共に陥れられて殺されていただろう。


 もし生き延びていたとしても、今ほどの名声は得られていなかっただろう。

 生きるために盗賊や山賊になり、気高い精神を失っていたと思う。

 孤児達や不幸な人達を助けるためとはいえ、盗むことで財貨を得ていたはずだ。

 まあ、悪徳な領主や商人だけを襲っていたとは思うが、俺が盗んだ分だけ領主や商人は民や奴隷から財貨を奪っていただろう。

 今回もそんな事にならないように、敵対する王侯貴族から財貨を奪うのではなく、悪徳な領主や商人が抱えている民や奴隷を助け出し、公爵領に迎えるのだ。


 近接している領地や同盟を申し込んできた貴族領を通過していける王侯貴族領は、騎士団や徒士団を直接送って領民や奴隷を救い出す。

 だが騎士団や徒士団を派遣すると戦争になってしまう王国領や貴族の領地には、敵の虚を突いて艦艇を送って民や奴隷を救い出す。

 戦えば必ず犠牲者が出てしまうから、戦いはできるだけ回避する。

 家臣達は誇りと覚悟を持って、死傷する事を覚悟して戦ってくれるが、実際に死傷者が出てしまうとお嬢様が心を痛められるからな。


 いや、公爵家の家臣だけでなく、敵対する貴族の家臣領民が戦いに巻き込まれてしまい、死傷してしまう事だろう。

 公爵家がどれほど気をつけていても、民や奴隷の犠牲をなくすことはできない。

 公爵家との戦いを理由に、貴族や商人が臨時の税をかけたり徴兵したりするのが目に見えているからだ。

 そんな事をさせたいためにも細心の注意を払って進軍路を決めなければいけない。


「では各部隊の出陣日と進軍路を伝える。

 その日までに準備ができないと思ったら、必ず言申し出るように。

 出陣日が遅れたり準備不足があったりしたら助けるはずの民を死傷させてしまう。

 そのような事になったら、公爵家は準備ができないと言う事とは比較にならない大恥をかくからな、分かったな」


「「「「「はい」」」」」

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