第119話 真実の告白
「動きは私が止めといてあげるから!その間に何とかしなさい!」
乳神様が、その豊満な胸元を揺らして両腕を突き出す。
素晴らしい眺め――っじゃなくて、途端に玲音の動きが止まった。
「――――」
玲音は体を揺すって藻掻くが、まるで何かに押さえつけられているかの様に完全に動きが封じられていた。
胸以外にもこんな特技があるとは、流石は乳神様だ。
俺は感謝の気持から、その
「なに馬鹿な事やってんの!早くなさい!」
二拍二礼しようとして、最後の一礼の前に何故か怒られた。
感謝の気持ちくらい素直に受け取って欲しいものだ。
「動きが止まってるんだし、そんなに急がなくても……」
「私がこの世界に居られる時間は限らてるのよ!だから早くしなさい!」
どうやら時間制限付きの様だ。
折角デカチチ二人の夢の競演だと言うのに、勿体ない。
まあ冗談はさておき、正直どうすればいいのかというのが本音だった。
思い出話をいくらしても、玲音からはまるで反応が返ってこなかった。
まさに暖簾に腕押しと言った所だ。
正直、俺とアイツの仲なので、愉快な昔話で記憶を取り戻すとばかり思っていたのだが、完全に当てが外れてしまった形である。
「どうした物か……」
「あんたも男なら、バシッと決めなさい!」
「バシッと決めろと言われても」
俺の人生でバシッと決めて来た事と言えば、セクハラ位の物だ。
勿論「バシッ」は、その後のビンタの音である。
ああ、これだとバシッと決められたが正解か。
「あの子に自分の気持ちを伝えりゃいいのよ。回りくどい事なんて必要ないわ。あんたがどれだけ思っているかを、はっきり口にして伝えなさい。そうすりゃ、きっと答えてくれるわ」
自分の気持ち……か。
確かに思い出話をするばかりで、今の自分の気持ちをまだ玲音には伝えてはいなかったな。
俺とあいつの仲なら、わざわざ口にしなくても通じる。
そんな風に思っていたのだが、それはやはり甘えでしかないのだろう。
やっぱり……大事な事はちゃんと口にして伝えないとだめか。
少々照れ臭いが、俺は意を決し口を開いた。
「玲音、聞いてくれ。俺達、子供の頃からずっと兄弟みたいに暮らして来たよな」
俺と玲音は小さい頃からずっと一緒に育ってきた。
小中高大。
ずっとずっと、まるで兄弟の様に一緒だった。
まあ流石に大人になってからは、お互い生活環境が変わって少し距離が開いてしまったけど、それでもスマホで頻繁にくだらないやり取りは続いていた。
きっと俺が死んでなければ、二人の関係はその先も続いていた事だろう。
「周りの奴らは俺の事をドン引きしてたけど、お前だけは……いや、お前もちょっと引いてたか。まあそんな事はどうでも良くってだな」
子供の頃は笑ってくれていた周りの反応も、年を経るにつれやがてそれは引きに変わり、最後には軽蔑の眼差しとなって俺から離れて行った。
だけど玲音は違う。
多少引いてはいたけど、決して俺から離れていく事はなかった。
なんだかんだで、ありのままの俺の事を受け入れてくれたんだ。
玲音は。
生前。
そんな坂崎玲音は、俺にとって只一人気の置けない無二の親友だった。
だけど今は違う。
この世界で再会して、お前の姿を見て気づいたんだ。
俺はお前の事を――
「玲音、お前に伝えたい事があるんだ。聞いてくれ」
何故だか体が震え、口の中が乾く。
俺とした事がどうやら緊張してしまっている様。
まあこんな事、初めてだからしょうがない。
息を大きく吸って、ゆっくりと吐く。
高鳴る緊張の早鐘を深呼吸で落ち着かせた俺は、正面から玲音の肩に手をまわし、そして強くその体を抱きしめた。
一瞬、あいつの体がびくっと震えた気がする。
俺は玲音を全身で感じながら、自分の真実の気持ちを告白する。
「玲音、俺は……俺は!
自分の気持ちの丈を叫んだ後、ゆっくりと彼女から離れ、その目を真っすぐに見据えた。
最後は玲音の眼を見てハッキリと伝えたい。
俺達の未来の事を。
「だから正気に戻ってくれ。そして俺のハーレム第3号に――」
そこで言葉を途切らせた。
3号で良いのかという迷いからだ。
1号は順番的にポーチだ。
2号はベーア。
問題は3号だった。
最有力候補はニーアなのだが、彼女は恐らく駄目だろう。
流石にそれ位、俺にも分かる。
ではアリアはどうだろうか?
彼女の胸は即戦力1軍間違いなしなのだが、如何せん立場が悪すぎた。
国を捨ててまでと考えると、流石に無理がある。
で、次はサラだが……まあサラは論外だ。
将来デカくなる事が約束されているとはいえ、それまで3号を開けておくつもりはない。
よってアウト。
最後はアーニュだ。
正直胸のサイズは今一つなのだが、顔はいいし、まあCならギリギリ許容範囲だろう。
それに彼女なら、誘えば二つ返事で入ってくれる筈。
という訳で――
「玲音!俺のハーレム4号さんになってくれ!」
我ながら完璧な告白だった。
これなら玲音も心打たれて、正気に戻る筈だ。
そしてハーレムin!
見ると、玲音の唇が震えていた。
じっと見つめていると、振り絞るかの様に彼女は小声を発する。
「ふ……」
ふ?
「安心しろ!俺も初心者だ!未経験者大歓迎だぞ!」
経験者優遇だなどとのたまうつもりはない。
というか、ハーレム経験者とかちょっと嫌だ。
「ざ……」
ざ?
ざ……ざ……ざ………………雑魚寝でも構いません?
どうやら、玲音は俺が狭い家で暮らしていると思っている様だ。
5人だと手狭だから、雑魚寝でも構わないとか……なんと慎ましやかな。
だがそんな心配なら無用だった。
「大丈夫だ!俺の家はでかい!ハーレムの10人や20人位余裕――「ふざけんなっ!」」
言葉を遮るかのように、玲音の拳が俺の顔面を捕らえる。
凄まじい衝撃に顔の半分が吹き飛んでしまい、俺はその場に力なく崩れ落ちた。
倒れた俺の視界には、顔を片手で押さえ、首を横に振る乳神様の姿が映っている。
あれ?
ひょっとしてオレ、何かやっちゃいました?
自分の犯したミスが分からぬまま、俺の意識は途絶えた。
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