第118話 想い出
「ぐあぁあ!」
蹴り飛ばされ、地面に背中から叩きつけられた。
その衝撃で周囲が泡立つように吹き飛び、巨大なクレーターが形成される。
「くそっ……」
叩きつけられた衝撃で背骨が――いや、背骨だけではない。
周囲の筋肉や肩の骨も粉々に砕け散っている。
もし痛みをダイレクトに受けていたなら、俺は完全に意識を失っていただろう。
そうならずに済んでいるのは、痛みを感じずらいハーフアンデッドの特性と、ポイントで取った痛覚鈍化のお陰だ。
上空からゆっくりと魔王――玲音が下りて来る。
魔王という称号とは裏腹に、翼を称えたその聖なる姿は神々しくさえ見えた。
何よりも、オッパイが大きいのが幻想的で素晴らしい。
「少しは話を……聞けよな」
俺はゆっくりと起き上る。
怪我は超回復と回復魔法で瞬間的に全快しているので問題ない。
とは言え、力の差は圧倒的だった。
これでは当初の目的であった、取り押さえるなどというのは夢のまた夢だ。
そこで俺はひたすら攻撃を防御し、玲音に正気を取り戻させるべく話しかけ続けていた。
効果があるかどうかは少々怪しいが、もはやこれ以外手立てはない。
あいつが俺との愉快な思い出から過去を取り戻し、正気に戻ると信じて続けるのみだ。
「6歳の時、誕生日プレゼントに送ってくれたルーペあったよな?」
玲音が俺にくれた初めての誕生日プレゼントだ。
あの時照れ臭そうにしていた彼女の事を――そしてその横で微笑んでいたボインボインの玲音の母親の胸の張りを、俺は今でも覚えている。
「あれ、実は死ぬ直前まで使ってたんだっ――ぜ」
突き出された玲音の拳を、俺は両手を交差させて受け止めた。
ベキョリと鈍い音が響き、両腕の骨が粉砕される。
体もすごい勢いで吹っ飛ばされそうになるが、地面に足を突き立てて踏ん張った。
「ありがとな」
ルーペは大事に使っていた。
俺の宝物だ。
――何せ、グラビア雑誌の胸元を凝視するのに必須だったから。
あれのお陰で、俺は細部まで巨乳を堪能する事ができたのだ。
玲音には感謝してもしきれない。
「そういやお前、いつも2月の13日にチョコくれてたよな。義理だっつって、その癖馬鹿でかいチョコを」
玲音は何時も1日早く俺にチョコを渡してくれていた。
義理だと言ってはいたが、本当は気づいていたんだ……俺はあいつの気持ちに。
「お前の気持ち、嬉しかったよ」
俺は恒例行事として、毎年2月14日にはオッパイ型(巨乳)のチョコを手作りしていた。
結構な重量であるため、材料であるチョコの代金も馬鹿にはならない。
特に学生時代はグラビア雑誌を買うのにいっぱいいっぱいで、金欠気味だった。
そんな俺には、玲音のチョコが本当にありがたい物だった。
――貰ったチョコを材料に出来たお陰で、材料費がかなり浮いたからな。
玲音は俺の財布を心配して、何時も1日早く俺にチョコを渡してくれていたのだ。
俺の懐事情を
そう言えば何時からだろうか?
玲音がチョコをくれなくなったのは。
確か完成したオッパイチョコを、始めて玲音に見せたあたりからだった気がするな。
まあバイトしだして経済的に余裕が出来て来た時期だから、玲音ももういいだろうと判断したんだろう。
「が……ぁ……」
玲音の手刀による突きを掌で止めようとしたが止まらず、その指先で心臓を貫かれてしまう。
一瞬意識が飛びそうになるが、俺は痛みを堪えてすぐ横の地面に爆裂魔法を発動させる。
爆風で体が吹き飛び、俺の顔面目掛けて飛んできていた鉄拳が空を切る。
心臓ぐらいまでは義理セーフだが、頭部がやられるのは流石に不味かった。
意識が飛べば回復魔法が使えず、追撃で昇天させられかねない。
「遊園地に行った時の事、覚えてるか?」
玲音の奴が見栄を張って友達に彼氏がいると言ったため、それを証明するって事で彼氏役を頼まれた時の事だ。
俺と玲音。
それにのその友達の3人で遊園地に行った訳だが……
「お化け屋敷、楽しかったよなぁ」
リニューアルされたばかりのお化け屋敷が凄く怖いと噂だったので、俺達は一通り回った後、最後の締めとしてそこへ入ったのだ。
玲音は強がっていたが、連れの友達の方はキャーキャー騒いでは俺の腕に捕まって来た。
――言うまでもないが、その子は巨乳だった。
胸に触って騒がれるどころか、向こうから押し付けて来るのだ。
それもぎゅうぎゅうと強烈に。
正に天国。
勿論その気持ちを文章にしたため、便せんに入れて玲音にお礼状として渡したのは言うまでもないだろう。
手紙を渡したらすっごい驚いた顔してたな。
顔も紅かったし、きっとアイツもお礼状なんて貰った事なかったから、緊張してたんだろう。
そういやあの後、何故か玲音の機嫌が糞悪かったな。
何故だろうか?
きっと感謝状みたいな、他人行儀な行動が気に入らなかったんだろう。
まあそりゃ怒るか、なんせ俺達幼馴染だしな。
「がぁっ!?」
玲音の手から白い光が放たれる。
俺は咄嗟に躱すが、それはまるで意思でもあるかの様に軌道をかえて俺の左腕を穿つ。
「ぐ……なんだこりゃ……」
玲音の手からから伸びる光は、俺の細胞に食い込んで来る。
ただ入り込むだけではなく、細胞そのものに溶け込んでいく感じだ。
玲音が手を引くと、それに合わせて俺の体が引き寄せられる。
「やべ!」
咄嗟に右腕で左腕を斬り捨てようとするが、それよりも早くもう一本の光が俺の右手を貫きそれを遮った。
そのまま引き寄せられ、俺は地面に叩きつけられる。
「ぐ……つ……」
首根っこを捕まれ、体を持ち上げられる。
直ぐ近くに玲音の顔が……
その瞳は冷たく。
俺の言葉が届いているとは到底思えなかった。
だが、諦めるつもりは――
「があぁぁぁぁぁぁっ!!」
全身に激痛が走る。
両腕を貫く光が俺の腕から体内へと触手を伸ばし、凄い速度で細胞を侵食していく。
これは不味い。
何とかしなければ冗談抜きで死ぬ。
だが体が動かない。
それ所か魔法も使えない。
何らかの力で干渉されてしまっている様で、スキル迄封じられていた。
「ぐぁ……あぁ……」
首元を押さえられているのと合わさって、首から下はもう自由が利かない。
光の浸食が上に向かっていたなら、もう意識は途切れてしまっていただろう。
下に向かってくれたのは幸いだ。
もっとも、それも時間の問題ではあるが。
「く……そ……駄目……か……」
もう……
すまん……
ポーチ……ベーア……皆……
≪なに諦めようとしてんのよ!≫
諦めかけたその時、腹の中から声が響く。
視線を動かすと、自分の腹部が赤く輝いていた。
乳神様から授かった宝玉の事を思い出す。
無くさない様にと、飲み込んで保管していた事を。
俺の腹部の赤い光は、閃光となって世界を赤く染め上げた。
それと同時に体から痛みが引き、感覚が戻って来る。
「全く……危なくなったら使えって言ったでしょ!忘れてるんじゃないわよ!」
光が収まるとそこには――
乳神様の姿があった。
その姿を見て俺は感動する。
相変わらず素晴らしいボリュームのその巨乳に。
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