第113話 効率レベリング
「父上!」
ポーチが叫び上空を指さす。
上を見上げると、夜空に無数の黒い染みが広がって行くのが見えた。
「転移か……」
俺はそれが本能的に転移系のスキルだと気づく。
何者かが俺達の上空に現れようとしている様だ。
一瞬玲音かとも思ったが、たぶん違う。
気配は確かに似ているが、あいつの強烈な気配は出現した場所から動いていない。
「あれは……」
シミの中から全身真っ黒な物が姿を現す。
それは人型をしているが、全身真っ黒で、その表皮は金属的な光沢を放っていた。
頭部に当たる部分には髪が生えておらず、顔には目も鼻も無い。
ただ大きく開かれた口だけが、顔の真ん中に開いている。
「天使だべか?」
全身真っ黒なそれは、何故か背中から生えている鳥の様な翼だけが真っ白だった。
その為ベーアは天使かと思ったのだろう。
だがあんな気持ちの悪い物が天使な訳がない。
恐らくは、玲音の分身か何かだろう。
気配からして間違いない。
「主よ。どうやらあれは広範囲に姿を現している様だぞ。少なくともこの国を覆う程度には」
「まじか!?」
ドラゴンは何らかのスキルを使ったのか、染みから現れている化け物が広範囲にばら撒かれていると俺に告げる。
どうやら玲音は、あれを使って同時に世界中を攻撃する積もりの様だ。
効率よく殺し、経験値を稼ぐために。
輪が幼馴染ながら、効率厨極まれりだ。
「まったく、レベル上げにチートみたいなセコい手使うなよな」
「どういたしましょう?」
アーニュが心配そうに聞いてくる。
広範囲にばら撒かれているという事は、当然隣の聖王国にも姿を現している筈だ。
奴らの強さは上級モンスターぐらいではあるが、空を覆うその数は尋常ではなかった。
襲われれば、人間の国など長くは持たないだろう。
「アーニュ、お前は帰って領地を守れ」
彼女は領主だ。
自分の領地が気になる筈。
「有難うございます。領地に戻った後、私は手勢を連れて聖都に向かいたいと思います」
どうやらアニューはアリアのカバーに向かってくれる様だ。
だがそれだと自領をほったらかしにする事になる訳だが。
「領地は大丈夫なのか?」
「私が治めるのは魔物領ですので、そう容易く落とされる事は御座いません」
「そうか、助かるよ」
あのアリアがそう簡単にやられるとは思わないが、聖都は広い。
広範囲をカヴァーしようとして、彼女はきっと無理をする事だろう。
だからアニュー達に援護に向かって貰えるのなら、正直有難かった。
彼女も又ハーレム候補だからな。
手紙の返事が来ないのは、ただ遅れているだけと俺は心から信じている。
「では」
そう言うと、彼女は転移魔法で消えていく。
俺が教えた物だ。
知識ではなく感覚的な指導だったが、アーニュには天性の魔法の才があった様で、あっさり魔法を身に着けている。
「ポーチとベーアは屋敷に戻ってサラとニーアの事を頼むよ」
「分かったべ」
「父上はどうなさるのですか?」
「ん?俺か?俺はちょっとばかり魔王をナンパして来るよ。俺の
俺は軽く笑う。
戦っても勝ち目は無さそうだが、関係ない。
何故なら、倒す必要などないのだから。
あいつの眼を覚まさせ、ハーレムに加える。
これはもう決定事項だ。
スケベの一念、岩をも通すって所を見せつけてやるぜ。
「父上……お気をつけて」
ポーチは付いて来るなどという無茶を口にはしなかった。
彼女自身、付いて来ても足手纏いになる事を理解しているからだ。
「負けたらぶっ飛ばすべよ」
ベーアは拳骨を作って顔の前に上げる。
出来る事なら、拳ではなくその大きなお乳様を使ってぶっ飛ばして欲しいものだ。
まあ負けないけど。
「わかってるよ」
「主よ。我はどうする」
上からドラゴンが首をもたげて聞いてくる。
「悪いけど、俺についてきて雑魚共の相手をしてくれないか?やばそうだと思ったらいつでも逃げてくれていい」
玲音の周りにも、上空に居る様な奴らが控えているかも知れない。
たいした相手ではないが周りをちょろょろされると面倒だ。
「わかった」
ポーチ達を転移で屋敷に送り、俺は玲音が封印されていた場所へとドラゴンと共に転移する。
「上か」
そこには彼女の姿はなく。
上を見上げると、遥か上空からは微かに月明りが差し込んで来ていた。
天井をぶち抜いて、ダンジョン上空に上がった様だ。
「取り巻きは居ないみたいだな」
気配は玲音の物だけだった。
どうやらドラゴンについて来て貰う必要は無かった様だ。
「取り敢えず、ドラゴンは帝国の首都を守ってやってくれ」
帝国にはパマソーがいる。
彼女はハーレム要員でも何でもないが、サラとは懇意にしてくれているので守れるのなら守ってやりたい。
「心得た」
転移魔法でドラゴンを帝国の首都へと送り、俺は真の姿に戻る。
変身したままでは瞬殺されかねない。
大地を強く蹴って飛び上がり、そのまま急上昇、ダンジョンを垂直に抜けた所で玲音の姿を発見する。
「……残念だ」
その姿を見て俺は静かに呟いた。
何故なら、月明りに浮かぶ彼女は――
服を着ていたからだ。
ガッデーム。
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