第110話 勝負

「はぁ!」


ベーアの爪を紙一重で躱す。

そのまま体を旋回させ、膝を曲げたやや低い姿勢から背中を彼女目掛けて叩きつけた。

これは鉄山靠という、昔ゲームで覚えた技だ。

この技の真骨頂は、背中にマシュマロを感じ、ロリ巨乳をおんぶしている気分になれる事である。


おんぶはいい!

巨乳のおんぶはすこぶるいい感じだ!


「ベーア!」


吹き飛ぶベーアをポーチが受け止めようとする。

だが俺はその隙を逃さない。

もう一つの体で背後を取り、腹部に両腕を回してロックする。


「カオス・スープレックス」


両腕に下乳を引っかけ、その感触を楽しみつつポーチを背後に投げ飛ばした。

二人は揃って結界にぶち当たり、地面に転がる。


「俺の勝ちだな」


爽やかな笑顔で勝利を宣言する。

ふふふ、我ながら華麗なセクハラだ。

彼女達も自分達の胸が狙いだとは夢にも思うまい。


「くうぅぅ……悔しいべぇ。差が開くばっかでずるいべ!」


日々のたの……苦しい訓練により、俺のレベルは既に80を超えている。

そしてポーチとベーアはカンスト済みだ。

彼女達は限界まで身体能力が上がり切っているため、これ以上の大幅な成長は望めない。

それに対して俺はまだまだ伸び盛り、差は開く一方だった。


「二人ではきついで御座る」


「アーニュは今日は休みだからな。二人とも疲れただろうから、もう休憩してくれ」


訓練には2日に1度のペースでアーニュにも参加して貰っている。

その為、彼女のレベルももう90まで上がっていた。

まあアーニュの場合、訓練の成果というよりは俺の血による所が大きいが。


純粋な魔物である彼女は、訓練ではたいして経験値を得る事が出来ない。

だがヴァンパイアには血を吸う事で力を得るという特性があった。

試しに俺の血を飲ませて見た所、彼女のレベルは劇的に上昇する。


まあその後、腹を下して24時間程悶え苦しんでいたが。

なに、些細な事だ。

という訳で、彼女には吸血による腹下しに1日、訓練に1日というサイクルで生活して貰っている。


頑張れアーニュ!


「カオスはどうするべ?」


「俺か?俺は……そうだな、分身残して死の山に行ってくるよ」


本気を出せばもうあそこのドラゴンより確実に俺の方が上だが、変身&分身じゃくたいか状態ならいい訓練相手になってくれるはずだ。

残して行く分身の方は戦える相手もいないし、調合にでも勤しむとしよう。

一応調合も努力と見なされるのか、多少は経験値が入るからな。


転移魔法でドラゴンの塒へと飛ぶ。

グースカ眠っていた様だが、流石に俺の気配には気づいたのか体を起こし頭を下げた。


「今日はどういった用件だ?主よ」


「実は今レベル上げててさ、悪いけどちょっと手合わせしてくんね?」


その言葉にドラゴンは目を閉じる。

まあいきなりやって来て、急に戦えとか言われたらそら嫌がるか。


とは言え、レベル上げはおこたれない。

悪いが断っても無理やり付き合って貰う。


こいつは雌だがオッパイないし。

俺は無い乳には厳しめなのだ。


「魔王を倒すつもりか?」


「ん?まあそうだけど?なんで分かったんだ」


「主の様な化け物が、更なる力を求める理由など限られているからな」


誰が化け物だ。

お前にだけは言われたくない。


「ならば手伝おう」


ならば……か。

ドラゴンは遥か昔からこの山に住んでいるという。

1000年前に魔王と関わっていてもそれ程不思議では無い。


「お前って魔王と会ったことあるのか?」


「私は直接かかわった事はない。遠目で少し見た程度だ。だが……私の母がかつて魔王に挑み滅ぼされている」


親の仇か。

だとしたらちょっとあれだな。


「悪いけど親の敵討ちはしてやれないぜ。俺は魔王を配下ハーレムに迎えるつもりだからな」


俺は玲音を殺す気は更々ない。

あくまでもハーレム要因追加の為のレベルアップだ。

騙して手伝わせる事も出来たが、恭順を示す相手に嘘はつきたくなかった。


「魔王を従える?………………ふっ、はあっはっはっはっはっはっはっは!」


ドラゴンが大口を開けて豪快に笑う。

その声量は凄まじく、衝撃で洞窟内が揺れる程だ。

正直何がそんなに面白いのか理解できん。


「ははははははははは、流石は我が主だ。魔王を従えるなど、この世界にそんな恐れ知らずな考えを持つ者は主以外いまい」


まあ乳神様からチートましましで転生させて貰ってるからな。

無茶でも何でも、絶対玲音は正気に戻して見せるぜ。


そしてその為にも、あいつを押さえ込むだけの力を手に入れて見せる。


「分かった協力しよう」


「いいのか?」


「少々口惜しくもあるが、それ以上に魔王が主に従う姿を見て見たくなった」


そう言うとドラゴンは翼を羽搏かせ、天井にあいた穴から大空へと飛び立った。

因みに天井の穴は、以前出入り口に罠をかけられ不快だったのか、対策としてドラゴンが出入り口用に新しく開けたものだ。


俺も魔法で飛び上がり、その後を追う。

洞窟を抜け上空を見上げると、太陽を背にドラゴンが俺目掛けて急降下してくるのが見えた。


「へ、この状態でどの程度戦えるのか試させて貰うぜ」


俺は迷わずドラゴンへと突っ込んだ。

巨大なドラゴンと、俺の小さな体が激突する。


「くぅぅぅぅぅぅぅ」


流石にこの状態だと、パワーのぶつかり合いでは敵わない。

俺は大きく吹き飛ばされてしまう。


ベーア相手なら、この状態でもパワー負けする事はもうない。

だがドラゴンの力はそれを大きく上回る。

やはり同じ99でも、ドラゴンの強さは別格だ。


「どうした主よ。そんな様では、魔王を従属させる事など出来んぞ」


「へっ!言ってくれるぜ!」


俺は態勢を立て直しドラゴンに突っ込んだ。

パワーで負けているのなら、それ以外でアドバンテージを取るまでの事。


スピード、スキル、魔法。

それ等を駆使して俺はドラゴンを翻弄する。

だが奴もその圧倒的な巨体とパワーを生かし、激しく対抗してくる。


「やるな主!」


「そっちこそな!」


白熱する一進一退の攻防。

俺と奴の手合わせは、この後十数時間にも及ぶ事になる。

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