第109話 4揉み
「うおおおぉぉぉぉ!!」
「はあぁぁぁぁぁ!!」
拳が交差し、俺の拳が俺に直撃する。
二人同時に吹き飛んで、張ってある結界に勢いよく体をぶつけた。
その衝撃に結界が大きく悲鳴を上げて揺らぐ。
「まだまだぁ!」
「いくぞぉ!」
だがこの程度でへこたれはしない。
俺は同時に立ち上がり、突っ込んで来る自分に拳を振るう。
俺と戦っているのは他でもない、俺自身だった。
73で覚えた分身スキルで、使用中は能力が大幅に下がる代わり、肉体を二つに分けて動かす事が出来た。
勿論感覚も共有している。
――これにより、俺は同時に胸を4つ迄同時に揉む事が出来るようになっていた。
まあ揉ましてくれそうな相手が1人もいない訳だが、それは些細な事だ。
重要なのは、同時に揉める様になったという事実。
いずれ必ず役に立つ時が来るはず!
「バンバンバンバンうっさいべ」
動きを止めて振り返ると、月明りの中ベーアとポーチが立っていた。
結界を張って外に音が漏れないようにしていたつもりだったが、耳のいい彼女達には漏れ聞こえてしまっていた様だ。
「父上、何をなされているのですか?」
「ああ、ちょっと訓練だ」
「訓練?」
ベーアが怪訝そうに首を傾げる。
彼女は元魔物だ。
その為訓練して体を鍛えるという概念はない。
「まあ、レベル上げの為のな」
レベル上げには大きく分けて2種類ある。
魔物式と人間式だ。
魔物は他の魔物を狩り、そのエネルギーを吸収して経験値に変える。
そして人間はそれ+訓練などで体を鍛えてレベルを上げる。
訓練によるレベル上げ。
狩によるレベル上げ。
魔物も人も、実はそのどちらでもレベルを上げる事が出来た。
にも拘らず、それぞれ魔物式人間式と分けたのは効率が全く違うからだ。
魔物はエネルギーの吸収能力に優れている為、敵を狩った時により多くの経験値を得る事が出来る。
その反面、肉体はほぼ完成している状態で生まれてくるため、訓練での強化ではたいした経験値を得る事が出来ない。
逆に人間はエネルギーの吸収能力が弱いため、魔物を倒した際得られる経験値が魔物より低めだ。
だが人間は未熟であり、生物としての成長の余地が大きく残されている為か、訓練によって魔物より遥かに多くの経験値を稼ぐ事が出来た。
それぞれ種族の特性によって、得意とする成長方法は違ってくる。
だが全ての存在の頂点に立つカオスというクラスは、魔物と人間、その両方の性質を有していた。
そのため他の純粋な魔物と違い、俺は訓練する事である程度効率よくレベル上げをする事が出来るのだ。
「レベル上げですか?」
「ああ、そうだ」
まあ訓練による経験値取得は、効率自体はそこまで高い訳ではない。
効率面では深淵の洞窟での魔物狩りに軍配があがるだろう。
だがあそこは本気で狩ると、直ぐに魔物が枯れてしまうという大きな問題があった。
なので沸き待ちしている隙間時間を、訓練で埋めるのだ。
幸い、ダメージや疲労を短期間で急速回復してくれるこの肉体なら、24時間休みなく鍛える事もできるしな。
という訳で、俺は頑張って鍛えてレベルカンストを目指す。
「ではお手伝いします」
「一人だけ強くなろうとか、そんな世故い真似は許さないべ」
彼女達は元魔物だ。
変異したとはいえ、魔物の頃のエネルギー吸収能力は残っている。
だから狩でもりもりとレベルが上がっていた。
だが同時に亜人でもある彼女達は、訓練による効率的なレベルアップもある程度行う事が出来る存在だった。
つまり俺と同じ、美味しいとこ取りという訳だ。
「分かったよ。でもきつくなったらちゃんと言えよ」
俺は無限に回復するが、二人にそんな能力は勿論ない。
無理して大怪我でもされたら事だ。
「分かりました」
「ぼっこぼこにしてやるべ」
結界を一部解くと、やる気満々のベーアがのり込んで来た。
変身と分身の2重弱体状態なので、油断していたら本当にぼこぼこにされそうだ。
「よし!二人同時にかかってこい!」
「参ります!」
「ほえ面かかせてやるべ!」
二人は遠慮なく同時にかかって来た。
俺はそれぞれの体で、1対1の状況を作って相対する。
ベーアは純粋にパワーとスピードで俺と並び。
ポーチは幻影や、トリッキーな動きで此方を翻弄してくる。
思った通り強敵だ。
だがその方が訓練は捗るという物。
狩で弱い相手を狩っても経験値が入らない用に、弱い相手と実践訓練しても大して意味はない。
強い相手と戦う事にこそ意味があるのだ。
「く、二人ともやるじゃねーか。でも……勝つのは俺だ!」
俺は気合を入れ直す。
目指すゴールはレベルカンスト。
副賞は訓練による不慮のパイタッチ。
4つ同時に揉めるという事を、今ここで証明してやるぜ!
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