第108話 希望
レベル70以上のカオスを魔王に倒させる。
それすらも賭けに近い保険だったが、カオスは見事レベル70を達成してくれた。
目論見が達成された事で、私の肩の荷は下りる。
カオスの命が世界を救う。
我ながら最低の考えだが、私には担当した世界を守るという使命があった。
申し訳ないが、彼には世界の為に生贄になって貰う。
「本当の本当にないですか?レベルを効率よく上げる方法 」
「悪いわね」
「そうですか。まあ他を探してみますよ」
死の山に居たレベル99のドラゴンを倒せば、80レベルへの大きな後押しにはなるだろう。
だがそれを私の口から伝える事は出来ない。
それは、ドラゴンを狩れとの指示になってしまうからだ。
――神である私に、カオスへの明確な指示を出す事は出来ない。
強力な力を持つ転生者に指示を出し導けば、それは神の力で世界に干渉する事に等しい事だからだ。
だからちょっとした軽いお願い位は出来ても、レベル上げを強要したり、褒美で釣って魔王討伐を頼んだりする様な事は出来なかった。
――だからこそ、私は彼をゾンビにしたのだ。
人に転生していたら、きっとカオスは女性のお尻――いや、胸を追いかけまわしていた事だろう。
そうならない様にするため、私は彼をゾンビにして人から遠ざけた。
そうすれば自らの欲望のために、変異を目指して必死にレベル上げをすると考えたから。
彼の進化の終着点であるカオスも同じだ。
強制的にカオスというクラスに着くよう設定し――強制ではあるが、転生前の作業なのでギリギリセーフ――レベル99まで上げなければ変異できない様にしておいた。
こうする事で、私は間接的に彼が更なるレベル上げを求める様仕向けたのだ。
「そういや、一つ聞いていいですか?」
「なにかしら?」
「魔王は千年近く封印されてるって聞きましたけど、あいつって俺より後に死んだはずですよね?」
「ええ」
魔王はカオスが死んだ翌日に亡くなっている。
葬式帰り、居眠り運転のトラックに引かれて。
「おかしくないですか?俺が死んだのって最近ですよね?」
「別におかしくは無いわよ。貴方が死んだのは1000年近く前の事だし」
「えぇ!?」
カオスが驚く。
死んでいる間の事は当然覚えていないので、彼からすれば直ぐに転生させられた感じだったのだろう。
だが実際は、彼の転生は死後1000年近くたってから行われている。
「何で1000年後!?」
「こっちにも色々と事情があるのよ。細かい事は気にしないで」
1000年経ってから転生させたのは、当然魔王の事があったからだ。
だがそれを伝える気はない。
言えば使命として彼を誘導した事になる。
「まあいいや。俺、レベル上げを頑張りますよ」
「80は遠いだろうけど、まあ頑張りなさい」
「80?なんの話です?俺が目指すのは99ですよ」
「は?」
何で99と思い変な声を出してしまったが、直ぐに気づく。
魔王基準で物を考えてしまっていたが、よくよく考ればカオスの最終目標は変異してハーレムを作る事だった。
99を目指すのは極々自然な流れだ。
「玲音を助けるには80じゃ足りないでしょ?」
「え?」
再び変な声を上げる。
カオスは今なんといった?
魔王を助けると言ったのか?
「あいつは貴重なハーレム候補ですから、死なせませんよ。ふん捕まえてでも正気に戻して見せます。その為に、レベルは出来るだけ上げときたいんです」
魔王を救う。
カオスは冗談めかしてそう口にする。
だがそれは決して嘘でも冗談でもなかった。
彼からは本気の感情が流れ込んで来る。
彼は本気でレベルを99まで上げて魔王を止め、その上で正気に戻そうとしているのだ。
「本気で……言ってるの?」
元々、私がカオスを転生させようとしたのは魔王を倒させる為ではなかった。
ましてや贄として魔王に倒させる為でもない。
彼なら……私を救ってくれた高田勇人という男なら、壊れてしまった魔王の心を救ってくれると思ったからだ。
きっと奇跡を起こしてくれる。
そう思い、私は1000年近く前に亡くなっていた彼を転生者に指定した。
「アイツには魔王なんて似合いませんから。俺が一発かまして正気に戻してやりますよ」
カオスは屈託のない笑顔でそう答えた。
そんな彼の真摯な感情に触れ、思う。
私はなんて醜いのだろうかと。
勝手にあこがれていた相手に失望し、彼を利用する事しか考えていなかった。
そんな様で、私は本当に自分が神だと言えるのだろうか?
前任者である女神アイルーは、魔王を滅ぼさなかった。
女神の力ならば、リポップを無視して殺す事も出来た筈だ。
だが彼女はそうせず、封印するだけに留めた。
それはきっと、後任の神を、そして未来を信じたからに違いない。
必ず魔王を救済してくれる。
そう信じ、彼女は殺す事無く魔王を封印したのだ。
私はその
なのに……勝手に失望し、私はそれを放り投げてしまっていた。
何と愚かな事か。
「復活までに99になる事も。彼女を救済する事も。どちらも不可能に近いわ」
「俺は諦めませんよ。99になって変異して、インキュバスになって、そしてハーレムを作る。その過程で魔王も救う。折角転生したんだから、自分を信じて突き進みます」
「そう……分かったわ。これを」
手に力を籠め宝玉を生み出す。
紅く光る真っ赤なそれを、私はカオスに手渡した。
「何です?これ?」
「本当に困った時に使いなさい。効果は使ってのお楽しみよ」
彼を信じて託そう。
私の全てを。
女神アイルーが未来を信じた様に、私も自分の選んだ転生者を信じる事にする。
「どれどれ」
「って、何やってんのよ!」
いきなり宝玉を使おうとした馬鹿に、全力で拳骨を落とす。
「イテテテ、冗談ですよ冗談」
それが冗談じゃなかった事はお見通しだ。
信じて託した瞬間に、渡した事を後悔する事になろうとは……
本当に禄でもない男だ。
「それは一回こっきりだから、絶対にもう駄目だって時以外には使うんじゃないわよ!」
「へいへい」
雑な返事だ。
不安で仕方がない。
だが信じると決めた以上、最後まで信じぬこう。
仮に駄目だったとしても、その時は私がカオスを助ければいい。
例え全てを失う事になったとしても。
かつて彼が私を救ってくれた様に。
今度は私が彼を助ける番だ。
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