第96話 プロポーズ

全く活躍できずに終わってしまった。

びっくりする程全く。


「本当に助かりました。ありがとうございます」


疾風怒濤の面々と、双子の巨乳が感謝の言葉を口にする。

それを向ける先は勿論ベーアとポーチだ。


当のベーアは経験値が稼げて満足なのか、彼らの事はどうでも良さげだ。

ポーチの方は俺に褒められるとでも思っているのか、その顔は誇らしげで、こっちを見て尻尾を無駄にフリフリしていた。


さも「父上、やりました」と言いたげな表情である。


だが馬鹿め!

お前に待っているのは誉め言葉ではなく「メッ」だ!

勝手に一人で突っ込んだ事を、この後注意させて貰う。


決して八つ当たりではない。


え?ベーアが一緒だったって。

そう言われたら、それを止めるのがポーチの役割だと説いてやるまでよ。

俺が世の中の理不尽という物を垣間見せてやるぜ。


もう一度言う。

これは決して八つ当たりではない。


「いやー、頑張ってくれたねぇ」


パマソーが能天気に声をあげる。

その手には疾風怒濤から受け取ったアダマンタイトが握られ、御機嫌そうだった。


「それにしても、パマソーさんがどうしてここに?」


依頼主が現場に来ている事を訝しんでか、褐色の禿げ頭が尋ねた。

因みにリーダーのアレクは結構重傷だったので、現在もマッチョなプリーストに回復魔法をかけて貰っている。


え?

カオスヒール?


使わないよ。

だって女の子専門だし。


「アダマンタイト集めの手伝いだよ。抜けたパーティーの代わりに彼らを雇ったんだけど、鉱物を探索するスキルを持ってないらしいからね。それで僕が同行してるって訳さ」


俺達には鉱物を発見するスキルが無い。

ポーチもベーアも鼻は利くが、流石に地中に埋まっている鉱石の匂いを嗅ぎつけるのは不可能だ。

だからソナー役としてパーマソーには同行して貰っていた。


ポイント使うとか論外だし。


「まあ陛下からの催促が少々五月蠅くてね。ぶっちゃけ、遅れてるわけだし。僕が直接危険な場所に出向いて頑張ってるとなれば、少しぐらい納期が遅れても陛下だって許してくれるかなと思って」


成程、そんな意図があったのか。

案外小狡いな、こいつ。


「成程、大変ですね。パマソーさんも 」


「なーに、君達程じゃないさ」


まあこいつは担がれてここまで来ただけだからな。

命がけで魔物相手に戦っていた彼らに比べれば、本当に大した苦労では無いだろう。


「まあアダマンタイトは手に入ったようだし、脱出しようか。転移魔法を使うよ」


目標の物が手に入ったのなら、もうここに用はない。

正直、急がずゆっくり歩いて帰りたい所ではあったが――


道中「大丈夫かい?」とか言いながら、パイパイズとの絆を深めて好感度を上げるいいチャンスだから。


――見た感じ、彼女達の疲労は深そうだ。


むき出しの胸の上半分から、ひしひしとそれが伝わって来る。

紳士ジェントルメンたる者、弱った乳の張りレディーを放っておくわけには行かない。

さっさと彼女達を安全圏に避難させ、保護してさしあげなければ。


「転移魔法!?お義父おとうさんはそんな高度な魔法が使えるんですか!?」


どうやら回復は終わっていた様だ。

アレクが俺の言葉に驚いて声を上げる。


そう言えば以前、アッシュモヒカンが転移魔法は大賢者レベルでしか使えないと言っていたのを思い出す。

普通の兄ちゃんにしか見えない俺がそんな魔法を使えるとなれば、まあ驚くのも無理はないだろう。


ていうか……誰がお義父さんだ!?


ポーチは貴様などに絶対渡さん!


「あんたにお義父さんと呼ばれる筋合いはないんだが?」


「確かに、今はまだそうですね。ですが……」


アレクは居住まいを正し、ポーチへと振り向く。

そのまま彼女の目の前まで歩いていき、その手を握ろうとして――しかしひょいと避けられた。


いきなり手を握ろうとしたら、そりゃそうなるだろう。

それが許されるんなら、俺もパイパイ揉み放題で苦労しない。


ていうか何がしたいんだ、こいつは?


アレクは避けられた自分の手を少し見つめた後、気を取り直しポーチへと熱い視線を送る。


目突きしていい?


「ポーチさん。俺は貴方が好きです。どうか結婚を前提にお付き合いしてください」


……え?

マジかこいつ?

告白しやがった。


何かやらかすつもりだとは思ったが、まさかこんな状況で告白するとか……


ここダンジョンの中だぞ?


俺はその行動に唖然としてしまう。


「一つ聞いて良いで御座るか?」


その言葉を聞いたポーチが不思議そうに首を捻り、少し考えてから口を開いた。


「あ、ああ!何でも聞いてくれ!」


「どちら様?以前どこかでお会いしたでござるか?」


「……」


ポーチの表情は真剣そのものだった。

そもそも、彼女は嘘を吐くと言う事を知らない。

冗談抜きでアレクの事を覚えていない様だ。


「ぷっ、くくく……何よそれ……あっははははは」


アレクのあり得ない行動に。

ポーチの爆弾発言に。

衝撃の出来事に静まり返る中、一人の女性が楽しげに笑いだす。


それは疾風怒濤のメンバーである、ローブを身に纏った貧乳けんがいさんだった。


彼女は腹を抱え、爆笑している。

どうやらツボった様だ。


「く、ははは。何が愛している女性がいるよ。相手にされない所か、顔も覚えて貰ってないじゃないの」


「う……いや、それは……」


貧乳の言葉に、アレクが凄く気まずそうに俯く。


ふふ、今のポーチは忍者ごっこに夢中で、恋や愛といった物に興味等ないのだ。

イケメンだからといって上手く行くと思ったら大間違いである。


ざまぁ!


「まったく。こんな間抜けに振られたのかと思うと、泣けて来るわ」


彼女はゆっくりと息を整え、目の端の涙を拭う。

そして項垂うなだれるアレクの肩に手を置いて、真っすぐにポーチの目を見つめた。


「彼の名はアレク。私達疾風怒濤のリーダーよ。まああなたから見れば大した腕じゃないかもしれないけど、パーティーの皆は彼を信頼して付いて行ってる。悪い奴じゃないから、名前だけでも憶えて上げて頂戴」


そう言うと、彼女は寂し気に笑う。

パーティーのリーダーであるアレクの肩を持つ気持ちは分からなくもないが、此方としては迷惑極まりない行動なので控えて貰いたい所だ。


全く、これだから貧乳は困る。


「了解した」


「ありがとう」


これ以上一緒にいると危険と判断した俺は、そうそうに転移魔法を使ってダンジョンから脱出する。


アレクの邪悪なる企てプロポーズが粉砕されたのは喜ばしい事だ。

だが危険の芽が全て取り除かれたわけではない。

必ずや第二第三の邪悪プロポーズが訪れるに違いない。


だから俺はここに誓う。


「誰がハーレム要員をやるかボケ」と。

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