第94話 カオス・センス

皆さんは第六感という物をご存じだろうか?


当たるも八卦、当らぬも八卦。

つまり何となく感じる、当たるかどうかも怪しい只の直感である。


だが俺の場合は違っている。

アラクネを倒した際、レベルが62に上がった俺は超直感カオス・センスというスキルを習得していた。

これは俺に都合のいい予感を、稀に与えてくれるという素敵スキルだ。


まあ何が言いたいのかというと。

今、ちょうどそれが発動したのだ。


「感じる」


「ん?どうしたのじゃカオス?」


ガキンチョが不思議そうに首を捻って、怪訝そうに俺を見た。

ダンジョン内を探索している最中いきなり感じるとか言い出したら、不審者を通り越して変質者レベルなので、まあその反応も仕方がないだろう。


「世界から貴重な宝が失われる。そんな予感を感じた」


世界にとっての宝。

それは口にするまでも無いだろう。


そう、大きなパイパイだ。


その喪失だけは、何としても防がなければならない。

我が身命にかけてでも。


「ベーア、ちょっと皆の事を頼んで良いか?」


世界の危機が迫っている以上、急がなければならない。

とは言え、パーティーのリーダーが仲間を放り出して一人行くわけにも行かない。

そこでサブリーダー(?)であるベーアに後を頼んだのだ。


――今回の探索には、面倒くさがり屋のベーアも加わっていた。


理由は至って単純。

経験値が稼げるからだ。

その為、屋敷にはニーアとその護衛――ないとは思うが、万一の事を考えてアーニュの所から何体か人に化けれる魔物を借りている――だけ残してきている。


「一人で経験値稼ぐ気だべや?」


「いや、そうじゃなくてだな。世界の危機を――」


「父上。お供します」


「独り占めはさせないべよ」


どうやらベーアは、俺の話を信じる気はない様だ。

ポーチもついて来るって言ってるし。


「しょうがねぇなぁ」


ぐずぐずしている余裕はなかった。

かと言って、サラと同行者であるパマソーを洞窟内こんなところに置いていくわけにも行かない。

なら取れる手は一つだけだ。


「ティラ、ケラーは俺の肩に乗れ!」


「ぎゅっ!」


「ぎゅう!」


2匹の小ドラゴンが指示に従い肩に飛び乗り、その爪ががっしりと俺の肩に喰らいこむ。

どうやら意図をちゃんと理解している様だ。

流石は俺のガールフレンド候補4号5号だけはある。


早く大きく育つんだぞ。

特にパイパイ。


「サラは俺の背中!」


「よかろう!」


サラが俺の首に手をまわし,背中にしがみついた。

そしてその袖口を、落ちない様にティラとケラーがしっかりと咥える。


うん、ペッタンコ。


「ベーアはパマソーを頼む!」


「しょうがないべなぁ」


「何だかわからないけど、お手柔らかに頼むよ」


ベーアはパマソーを肩に担ぎ、軽く飛び上がった。


「よし!行くぞ!」


号令と共に俺は大地を強く蹴る。

世界の平和を、未来の希望を守るために。


「カオスダッシュ!」


説明しよう。

カオスダッシュとは――意味のない只の叫び声である。

だが俺は走りながら叫ぶ。


「カオスダーッシュ!」


「ダッシュダッシュうっさいべ」


すぐ横を飛ぶベーアから苦情が来たが、俺は気にしない。

これは大事な様式美なのだ。


「カオスダーッシュ!」


勢いよく走っていると、いくつもの分かれ道に差し掛かる。

だが俺は迷わずその内の一つに飛び込んだ。

カオスセンスが俺に囁くのだ。


パイパイの匂いがすると。


俺はその声に従い、いくつもの分岐点を迷う事無く真っすぐに進む。

因みにカオスダッシュは3回目ぐらいで飽きたので、それ以降は叫んでいない。

何を隠そう、俺は飽き性だった。


そんなどうでもいい事を考えながら、4つ目の分岐点を右に進んだところでポーチが口を開いた。


「この先で魔物と人間の戦闘があるでござる」


そうでござるか。

多分そこがゴールでござる。

にんにん。


「見えた!」


遥か前方で、魔物と人が争っているのが見える。


魔物の方は大きな4足獣。

トロール。

空飛ぶ豚の3種だ。


人間の方は……あれ?


戦う集団の中には、見知った顔があった。

ストーカーアレクだ。

全身血塗れで、今にも死んでしまいそうに見える。


スピードを落として、ゆっくり行ったら死ぬかな?


――いや駄目だ。


俺の巨乳カオスセンサーが、猫耳の巨乳達をロックオンしている。

彼女達もかなり怪我をしている様だった。

急いで助けてあげないと。


しかし……あの双乳もどこかで見たような?


「カオス!こいつは任せたべ!」


兎に角急ごうと速度を上げようとしたその時、ベーアが急にパーマソーを此方に放り投げて来た。


「うわぁぁぁ!」


「うお!あぶね!」


俺は咄嗟に悲鳴を上げるそれを受け止める。

仮にも依頼主なのだから、雑に扱うのは止めて差し上げろ。


「ひゃっはー!経験値だべぇ!」


「一番槍は譲らないで御座る。にんにん」


ベーアが小悪党の様な叫びをあげ、速度を増して突っ込んで行く。

ポーチも負けじとその後を追う。


完全に置いて行かれてしまった。


真っ先に駆け付けて華麗に敵を殲滅し、パイパイズの好感度を上げてモミモミ券獲得の交渉をしたかったのだが……


託児を押し付けられて、その野望は露と消えてしまう。

世の中理不尽だ。

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