第93話 立てる!

「終わったな……」


荒い息を整え、周囲を見渡す。

怪我を負っている者も居るが、重傷者はいない。

なんとか8人全員無事生き延びる事が出来た。


「ったく、あの鎖野郎。手こずらせやがって」


シーフのジャンが荒い口調で愚痴を零す。

だがその表情は晴れやかだ。


「はぁ……ごめん、アレク。MPゼロよ。少し休ませて」


そう言ってアレサはその場にへたり込む。

幾らブーストロッドがあったとは言え、最上級モンスターであるリッチ・キングの魔法を妨害し続けてくれたのだ。

その疲労は、恐らくこの場にいる中で一番だろう。


「頑張ったな、アレサ。この勝負に勝てたのはお前の頑張りのお陰だ。ゆっくり休んでくれ」


俺は労いの声を掛け、彼女の肩に手を置く。


「アレク……」


アレサが潤んだ瞳で此方を見つめて来る。

俺は自らの失敗に気づき、素早く肩から手をどけ彼女から目を逸らした。


アレサの気持ちは分かっていた筈なのに、何をやっているんだ俺は……


俺には心に決めた人がいる。

だからアレサの気持ちに答える事は出来ない。

そんな状態で中途半端な優しさを見せるのは、彼女を傷つけるだけでしかなかった。


気まずい空気が流れる。


「それにしても凄かったです!」


「流石!疾風怒濤の皆さん!」


そんな空気を吹き飛ばすかの様に、キャットタイガーの二人。

キティとララが俺達を絶賛する。


「君達も良く頑張ってくれた」


彼女達は素早い身のこなしを生かし、ちょこまかと動く事で敵の注意を引いてくれていた。

非力であったが故に攻撃面では貢献できていないが、自らの出来る事を判断してきっちり動いていた辺り、彼女達も立派な冒険者と言っていいだろう。


「いえ、そんな。私達なんて……」


2人が照れ臭さそうに笑う。

この子達はまだ15-6だ。

このまま行けば、何れはSランクパーティーにまで上り詰めて来る事だろう。

将来が楽しみだ。


「すまん」


その時、深刻そうな表情でジャンが謝った。

一瞬何の事か理解できなかったが、直ぐにその意味を理解する。


何故なら――


「魔物が来るぞ!」


その掛け声に、皆に再び緊張が走る。

戦闘に集中するあまり、新手の接近に気づけなかった。

ジャンはその事を謝っていたのだろう。


実際、パーティーのセンサー役である彼がもう少し早く気付いていれば、戦闘は避けれた可能性は高い。

だがあれだけの激戦の直後に、それを彼に求めるのは流石に酷という物だ。

これは誰のせいでもない。


「迎え撃つぞ!」


敵の姿は既に視認範囲に入っていた。

追加オーダーはトロールが9体――前方にいた魔物――に加え、最上級モンスターである巨獣ベヒモスが1体。

それに最上級モンスターの空飛ぶ豚フライングオークが2体だ。


「もっと足音立てろよな」


ベヒモスの体高は3メートルにも達しており、その鋼の様な肉体の重量は軽く2トンを超すだろう。

にも拘らず、奴は音もなく此方へと駆けて来る。


「万事休す……か」


シーザが呟いた。

万全の状態ならどうにか出来た可能性はあった。

だが先程の戦いで、皆疲労困憊だ。

勝算は限りなく0に近いだろう。


だがそれでもやるしかない。

生き延びるために。


よし!

今決めた!


この戦いに勝って、俺はポーチさんの元へと帰る!

そして彼女にプロポーズするんだ!


「行くぞ!気合を入れろ!」


「「おお!!」」

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