第91話 幼馴染

「よう。相変わらずひでー好格だな」


久しぶりに幼馴染の部屋を訪ねる。

おばさんから、偶には顔を見せてやってくれと頼まれたからだ。


「誰かに見られるわけでもなし。ほっとけ」


幼馴染は引きこもりだった。


忙しい身だったので断っても良かったが、まあ昔なじみの顔を久しぶりに見るのも悪くはないし。

何より、幼馴染のおばさんの胸の膨らみ――おばさんは年の割に若くて綺麗で、超胸がおっきかった――を久しぶりに拝みたい。


そんな邪念丸出しで俺は幼馴染の家へやって来ていた。


「しっかし相変わらずおばさんの胸、ダイナマイツだな」


久しぶりに見たおばさんの胸は歩く度にゆさゆさ揺れて、正にマーベラス状態。

来たかいがあったと言う物だ。


「お前……俺の前で良くそれを恥ずかしげもなく言えるな?」


「俺は正直者だからな」


恥じ入る事など何もない。

正直は美徳だ。

そんな聖人君子の様な俺が、何故か未だに童貞なのが不思議でしょうがない。


世界の七不思議入りしてもおかしくないレベルの謎だ。


「全く変わらないな、お前は」


「そういうお前こそ、相変わらずゲームばっかじゃねぇか。偶には外に出てオッパイを追いかけたらどうかね?いいぞ、オッパイは」


「追う訳ねぇだろ。馬鹿か?大体俺はレベル上げで忙しいんだよ」


幼馴染ヒッキーは俺と話しながらも、ゲームのコントローラーは手放さない。

奴は生粋のゲーマーだ。

ええ歳して引きこもりが続けられるのも、そのプレイ動画等で収益を得て生活しているからだった。


「もうレベルカンストしてんじゃん」


「熟練度がまだなんだよ。全部極めないとトロフィーが揃わないからな」


「相変わらず豆な奴だな。俺には理解できん」


トロフィーを集めた所で、それは自己満足以外の何物でもない。

ゲーム自体は俺も好きだが、流石にそんな無駄な事に時間を割くぐらいなら、外に出て道行く巨乳のチェックをしていた方が遥かに有意義だ。


「なあ、勇人は異世界って信じるか?」


「なんだよ、唐突に?」


「あるなら行ってみたいと思ってさ。お前はどうだよ」


「……全女性が巨乳の世界になら、俺も行ってみたくはあるな」


世界は理不尽だ。


この日本という国は貧乳が多い。

稀に可愛い巨乳がいても、大抵の場合は男付きか、モーション掛けたら俺の事をキモイ死ねと罵って来る女性ばかりだった。

だから巨乳・ザ・ワールドがあるなら、俺も是非行ってみたいとは思う。


「お前は本当に子供の頃からぶれないな」


「ふ、己の信念を貫く男の中の男と自負しているぜ!おっと、惚れるなよ!俺は巨乳しか愛せないからな!」


「胸なんか所詮脂肪の塊だろ。何が良いんだよ?」


「あの中に詰まっているのは脂肪ではなく、無限の可能性だ。貧乳のお前には分かるまい。胸は母性にしてロマン。そう、無限の大宇宙なのだ!」


「ばっかじゃねぇの?」そう呟き、玲音はゲーム画面に視線を移す。

幼馴染の名は坂崎さかざき玲音レオン

生物学上では雌という事になっている。


だが残念な事に、彼女は生まれて来る時オッパイの成長遺伝子を母親のお腹の中に忘れてきてしまった様で、その胸元は鋭利な絶壁と化していた。

もし彼女の胸元が母親譲りの巨乳ビッグバンだったなら、今頃ジャンピング土下座からのローリング土下座で、俺は彼女にモミモミを懇願していた事だろう。


「もし、異世界転生してさ――」


彼女の言葉を遮るかのように、コンコンとノックが響く。

ついで、返事も待たずおばさんが扉を開けて中に入って来た。


ノックから開閉迄の時間が短すぎて、ノックがほとんど意味を成していない。

デリカシーが有るのか無いのか、判断の難しい所だ。


「おやつ持って来たわよ」


手にした盆の上には謎の紫の飲み物と、鰻のかば焼きが乗っている。

どう見てもおやつには見えないが、たわわなデザートをこの目で楽しめたのである意味最高のおやつではあった。


「それじゃ、私はちょっと出かけて来るから。ごゆっくりね」


口元を盆で隠してそう告げると、おばさんささっさと部屋から出て行ってしまった。

ごゆっくりと言われても、長居する気は更々無いのだが。


「うわっ!?何だこりゃ」


紫のジュースを手に取ると、強烈なにおいが漂って来る。

ニンニクと血なまぐさい何かを混ぜたような匂いだ。

正直口に含むのも躊躇われたが、せっかく持ってきてくれたものだし――


「ヴォエ」


気持ち悪!

超気持ち悪!


余りの不味さに危うく吐き出すところだった。

おばさんには悪いが――ん?


コップを戻そうとしてある事に気づく。

鰻の皿の影に、1辺3センチ程のピンク色の包みが置いてある事に。

手に取ってみると、それは円型に少し膨らんでいた。


……

…………

……………


これはあれかな?

後でおばさんが筆卸ししてあげるわよ、というメッセージなのだろうか?


気持ちは嬉しいが、いくら胸が大きくても年増の人妻に初めてを捧げる気はない。

後で断りの手紙でも用意するとしよう。


「そういや玲音、何か言おうとしてなかったっけ?」


「何でもないよ」


機嫌が悪そうな、ぶっきらぼうな返事が返って来る。


「そうか?まあいいや。ちょっと銀行言って来るわ」


今現在手持ちが余りなかったのを思い出したので、俺は銀行に行く事にした。

コンビニも近くにはあるが、場所的に銀行の直ぐ向かいなので、銀行で下ろした方が手数料がかからなくて済む。


「銀行?」


玲音は訝し気に聞いてくる。

まあ友達の家に遊びに来て、いきなり銀行で金を下ろしてくると言われればその反応も仕方ないのかもしれない。


「ああ、ちょっと入用でな」


だが本当の事――おばさんに強く押し切られ、ホテルに行く事になってしまった時用と――は言えないので、適当に言葉を濁した。

童貞とは言え、女性に払わせるわけにも行かないからな。


「コンビニにも寄って帰って来るから、なんか欲しいものあるか?」


「別に……」


「そっか。じゃあ行ってくら」


それが俺と玲音との最後の会話だった。

その後、銀行強盗に撃たれた俺は、熟女の手ほどきを受けることなくあの世に旅立ってしまったからだ。


☆★☆★☆★☆


「以上!回想終わり!」


「なんじゃいきなり!?」


大声を上げたせいか、サラが驚いて目を丸めている。

唐突な奇声如きで驚くとは、彼女もまだまだ精進が足りんな。


「気にすんな」


久しぶりに幼馴染が夢に出て来たので、少し思い出していた。

しかしまさか俺が転生しちまう――半分アンデッドだけど――なんてな。


残念ながら此処は巨乳の世界では無かったが、楽園でないと言うなら、俺が楽園に変えてやればいいだけの事。

今は透視能力アナライズを優先してはいるが、此処での仕事が終わり次第秘薬作成に戻る積もりだ。


待ってろよ!

必ずや俺が世界を変えてやるぜ!

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