第90話 契約

「ようこそ!僕の工房アトリエへ!」


パマソー・グレンの工房は一言で言うと……物凄く散らかっている。

汚部屋ならぬ、汚工房だ。


足元に黄ばんだ書類の束が散らかり。

棚や机の上も書類は勿論の事、フラスコやよく分からない実験器具でしっちゃかめっちゃかだ。


工房全体からは鼻を突く薬品の刺激臭が漂い、壁や天井には煤がこびりついていた。

きっと色々爆発させているのだろう事が手に取る様に分かる。

正に混沌とした様相の汚い工房だ。


「バッチい工房じゃのう。家のベーアロクデナシの部屋といい勝負じゃ」


ベーアも流石にここまで酷くはない。

と思いたいところだが、家には優秀な巨乳メイドがいるからあの程度で済んでいるだけなのだろう。

放っておけば、この工房に匹敵するレベルに進化していてもおかしくはなかった。


「それで、さっきの話の続きなんだけど」


パマソーとは今日あったばかりの初対面だ。

にも拘らず、こうやって彼の工房に招待されたのには理由がある。


「ああ、仕事をする代わり。その報酬として、スキルを教えてくれればい」


パマソーは今、皇帝直々の依頼を受けていた。

それを達成する為にはある鉱物が必要となるのだが、残念ながらそれはここ数年産出が無く、必要量を入手するのは不可能に近状態となっている。


だからそれを俺達が手に入れ、その対価として、パマソーから錬金術のスキルである透視アナライズを習うという話になっている。


「さっきも言ったけど、アダマンタイトの入手は凄く危険だよ。先に依頼していたS級パーティーの2つの内1つは、入手不能として降参している位だし」


パマソーの求めている物。

それはこの世界で最も硬いと言われている鉱物、アダマンタイトだ。


帝国北部にある、深淵の洞窟ディープダンジョンからのみ産出されれていた希少金属であるそれは、ここ数年、とある事情により産出が完全にストップしてしまっていた。


一つは、長年の採取によって低階層部分の物が枯渇してしまった事。

そしてもう一つは――近年、中層以降に強力な力を持った謎の魔物達が溢れ出している為だ。


元々中層は、上級モンスターが極稀に姿を現す程度の難易度でしかなかった。

だがある時を境に中層は上級モンスターの魔窟と変わり、最上級モンスターとの遭遇すら報告される危険地帯と化してしまっていた。


「さっきも話したけど。冒険者を初めて日が浅いからA級なだけで、実力はSランクパーティーにも劣らないから安心してくれていい」


ぶっちゃけ。

アレク程度でS級になれているのだから、俺とポーチのパーティーはSSSSSランクぐらいの実力を持っていると言っても過言ではない。

さっさと仕事クエストを終わらせ、夢の透視能力を手に入れてさせて貰うとしよう。


「最強テイマーにして天才錬金少女の私にかかれば、ダンジョン攻略などお手の物じゃ!刮目するがよいぞ!」


あからさまに戦力外の小娘が寝言をほざく。

というか、まさかこいつダンジョン攻略について来る気か?

それでなくとも生意気なガキパマソーの護衛もせにゃならんのに――採掘系のスキルを所持していない為――面倒臭い事この上なしだ。


「ほほう、それは頼もしい限りだね。期待しているよ」


パマソーは分厚い眼鏡を指でクイクイと動かす。


口調と言い。

細かな動きと言い。

どうも胡散臭く感じて仕方がない。


まあ男相手だからそう感じてしまうのだろう。

これがオッパイの大きな女性だったら、きっとミステリアスって評価で落ち着いただろうからな。


「まあ大船に乗ったつもりで期待していてくれ」

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