第89話 運命の出会い

ルグラント帝国。

それは大陸北部に広大な領土を持ち、絶対君主制をしく軍事国家だ。


その頂点には亜人が就いており。

この国は数百年という長きに渡り、絶対的な力を持つ一人の皇帝おとこによって支配され続けていた。


「ここが首都か」


……トップの政治事情は固っ苦しい感じの様だが、一般市民の生活はダリア王国とあまり変わらないな。


全ての権限が皇帝に集まっている以外、特に変わった法律がある訳でもなく。

皇帝に対する中傷を往来で声高に叫ぶ様な、そんな馬鹿な真似をしない限り政府に干渉される心配はない。


「でかい建物が多いのじゃ!」


俺達は今、ルグラント帝国の首都へとやって来ていた。

サラとポーチと俺。

それにドラゴン姉妹でだ。


ダリア王国の建物は2階建てが主流だったのに対し、帝国の建物は3階建以上の物も多い。

それを見たサラが、何が楽しいのかテンションを上げて飛び跳ねる。


「あんまぴょんぴょん跳ねんなよ。お上りさんみたいで恥ずかしいだろ」


「にんにん」


このポーチの口にした「にんにん」は、たぶん『父上の言う通りだ』だと思われる。


……ポーチには流石に注意した方が良い気がしてきた。


「遊びに来たわけじゃないんだぞ」


お目当ては錬金術だ。

この国には天才錬金術師として名を馳せる、パマソー・グレンなる人物がいるらしい――サラ調べ。

その人物に接触するべく、俺達は帝国へとやって来たという訳だ。


「わかっておる!我が宿命のライバルとの邂逅に、少々テンションが上がってしまっただけじゃ!」


駆け出しで初歩の初歩しか齧ってないちびっ子の癖に、何故かサラは件の天才錬金術師を勝手にライバル認定していた。

身の程知らずもいい所である。


そもそもアポのとれていない現状、会えるという保証はどこにもない。

だと言うのに無駄にテンション等上げて、まったく呑気な奴だ。


「所で、こいつらどけてくんない?」


二匹のドラゴンが、俺の上で陣取り合戦を繰り広げている。

どちらが肩でどちらが頭かを争っている様だが、邪魔なので両方下に降りて欲しいのだが……


うんこでもされたら一大事だし。


「見知らぬ人混みで緊張しておるのじゃろう。本能的に安全な場所を求めておるのじゃ。優しく受け止めてやってくれ」


不安や不満があるなら、それを何とかするのが世話をするって事だと思うのだが……自分で立候補しておいて、いくら何でも放棄すんの早過ぎじゃね?


「そんなに怖いんなら、家に帰るか?」


「びぎゃ!」


「ぶぎゃぎゃ!!」


二匹がガジガジと力いっぱい噛みついて来る。

どうやら俺の言葉を侮辱と受け取った――人間の言葉は理解している――様だ。


「いててて」


子供とは言えドラゴンだけあって、現時点でこいつらのパワーは最上級のそれに近い。

噛まれてるのが俺でなければ、きっと骨ごと噛み砕かれていた事だろう。


暴力系ヒロインはベーアでお腹一杯なので、出来ればこの二匹にはお淑やかに育って貰いたいものだ。


「今のはカオスが悪い」


「にんにん(彼女らにもプライドがあるのです。父上(訳))」


「やれやれ」


怖いから俺の上に乗っかって、指摘されたら怒って噛みついて来るとか。

流石に理不尽だ。

だが我慢するとしよう。

我が儘を受け止め、度量を見せて好感度を稼いでおきたいからな。


この二匹が将来、ボインボインの亜人に変異すると信じて。


「まずは宿を探すか」


「そんな事より、さっさと悪の錬金少女ライバルの元へ向かうのじゃ!」


「向かうも何も、今は帝国の首都に居るって以上の情報が無いだろ」


国の首都だ、当然デカい。

闇雲に動いて遭遇できる確率など0に等しいだろう。

先ずは宿を決めて、情報収集から始めなければ。


「ライバルとは惹かれ合う運命にあるのじゃ!」


「にんにん(私とベーアの様にです。父上)」


ポチとベーアは兎も角、サラと件の錬金術師では流石に比べるのも失礼なレベルだろう。

よって運命的な出会いは無いと断定できる。


「さあ、姿を現すのじゃ!天才錬金術師よ!」


そこそこ人通りのある大通り。

その中央で両手を天に掲げ、サラが大声を叫ぶ。

当然周囲の視線は俺達に集中する。


きっと周りの人達は、ちょっと痛い子供が元気玉ゴッコしてるとでも思っている事だろう。

だが実際は猛烈に痛い行動だった。


ニーアさん。

ちょっとサラの事甘やかしすぎじゃありませんか?

いくら何でも常識が欠如しすぎですよ、こいつ。


「僕に何か用かい?」


サラの頭に拳骨を落とそうと腕を上げた所、突然背後から声を掛けられる。

振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。

赤く分厚いローブに身を包んだ、明度0の瓶底眼鏡を付けた少年だ。


「誰?」


「僕の名はパマソー・グレン。天才錬金術師さ」


少年はにやりと笑う。

その顔がムカついたので、取り敢えず振り上げた拳はそいつの頭に落としておいた。


「あいったぁ!?いきなり何をするんだい!?」


「いや、何となく」


「何となく!?君は何となくで、人類最高峰の頭脳に拳骨を落としたっていうのかい!?」


「うん」


こうして俺は運命の出会いを果たす。

天才錬金術師とうしそうち、パマソー・グレンと。

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