第88話 悲しい夢

夢を見た。

とても悲しい夢だ。


希望に向かって手を突き出し続けても、決して届かない。

そんな切なくも悲しい夢だった。


「カオスさん。そんな所で寝てたら風邪を引いてしまいますよ」


優しい声に導かれ。

覚醒した俺はゆっくりと体を起こし、声の方へと振り返る。


「お目覚めですか」


そこには優しく微笑む、乳――改め、ニーアが立っていた。


「アンニュイ、チチムール」


「は?」


「気にしないでくれ。只の魂の言葉だ」


目の端の雫に気づき、俺は指でそれを拭きとる。

どうやら悲しい夢を見たせいで、泣いてしまっていた様だ。


「怖い夢でも見られたんですか?」


ニーアは心配そうに俺の顔を覗き込む。

お返しに、俺はその豊かな胸を凝視した。

ギブアンドテイクって奴だ。


「ああ。少し……悲しい夢を見てしまってね」


「どんな夢だったんです?」


「目の前にたわわな果実がぶら下がっていて、それに手を伸ばしたんだ。でも届かない。頑張って必死に手を伸ばせば伸ばす程、たわわは遠ざかってしまう。そんな悲しい夢さ」


「何故それで涙を流せるのかは正直理解しかねますが、きっといい事がありますよ。元気を出してください」


そういうとニーアはにっこりと微笑んだ。

その大きな胸に俺の顔をドッキングさせてくれれば、一瞬で元気になれるのだが――


俺は昼間、彼女の休憩中に満を持してバッタをプレゼントしている。

人間サイズの極上のバッタ――アーニュの配下の魔物――を。

だが余り反応は良くなかった。


というか突き返された。


多分もっと大きいのが良かったのだろう。

俺とした事が大失敗だった。

勿論このままで終わらせるつもりはない――アーニュに頼んで、次は大岩位の奴を用意して貰うとする――が、現在俺の好感度は若干下がり気味だ。


――今の好感度でドッキング申請は少々リスキーなので止めておこう。


「そう言えば、サラ達はもう戻って来た?」


「いえ、まだお戻りにはなられていません」


窓を見ると既に日は落ちている。

時計を確認すると、8時を回っていた。

予定より少々遅い時間だ。


「まあ、ポーチがいるから心配ないとは思うけど」


「ええ。どちらかというと、サラ様が我が儘を言ってポーチさんを困らせていないかが心配です」


「ははは、それはあり得るな」


「ふふふ」


何となくいい雰囲気だ。

今なら乳首当てゲーム位には持ち込めるのではないだろうか?

そんな野望がむくむくと持ち上がる。


が――


「あ、帰って来ちまった」


サラ達の気配を感じ取る。

もう屋敷の直ぐ傍まで帰ってきていた。


全くタイミングの悪い奴らだ。

後5分あれば、俺の巧みな話術でゲームに持ち込めたと言うのに。


ガッデーム!


「私、お迎えに向かいますね」


なんだかんだ心配していたのだろう。

ニーアさんは小走りで駆けて行く。


決して俺の邪悪な企みのオーラを感じ取って、その場を退散したわけではないとだけ言っておこう。

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