第87話 ライバル

「ぎゅえええぇぇ!」


マントヒヒ型の魔物。

マントーを、ティラとケラーが蹴散らした。

その死体に近づき、妾はそいつの牙上下4本をナイフでがつがつやって取り外す。


「これでクエスト完了じゃ!」


依頼にあった素材の収集はこれで全て済んだ。

魔物の死体を見ると、もう半分程2匹が食い散らかしていた。

まるでベーアみたいだと思いつつ、2匹のレベルを確認する。


狩の前は、1だったレベルが20に上がっていた。

大成長だ。


「ま、妾ほどではないがな」


ふふふ、何を隠そう妾のレベルは30にまで上がっている。

絶好調!

錬金少女にリーチをかけたと言っても過言ではない。


「ポーチも護衛ご苦労じゃったな。さて、それでは帰るとするか」


この狩場へは、カオスの転移魔法で朝食後に送ってもらっている。

空を見上げると、木々の隙間から傾いた日差しが差し込むのが見えた。

じき夕刻に差し掛かる時間だ。

森から街まではかなりの距離があるが、帰りはポーチにおんぶして貰う予定なので、今から帰れば晩御飯には十分間に合うだろう。


「悲鳴だ」


「悲鳴?」


ポーチの唐突な言葉に眉をしかめる。

私には悲鳴などまるで聞こえない。


「少し先で、人間が魔物に追いやられているにんにん」


「その語尾は少し無理があるのではないか?」


まあその事はこの際置いておこう。

魔物にやられそうな子羊がいるのなら、救出に行かなければならないだろう。

何故なら私は天才錬金少女(仮(リーチ))なのだから。


「それはどっちじゃ?」


「西、200メート程の位置にん」


「ティラ!ケラー!付いて来るのじゃ!」


そう2匹に声を掛け、私は走る。

甘やかされていたとはいえ、腐ってもエルフだ。

枝葉や木の根。

それらを六感で感じ取り、私は苦も無く森の中を疾走する。


「む!あれか!」


魔物と人の姿を確認する。

上級の魔物3体に、5人の冒険者が追い詰められていた。


正確には6人か。


一人は怪我をしていて、血を流し地面に座り込んでいる。

追い込まれているにも関わらず、一段がその場から逃げようとしないのはその仲間を守る為だろう。


仲間の為に命を賭ける。

そういうのは嫌いではない。


「そこまでじゃ!この天才錬金少女が来た限り!魔物の好きにはさせん!」


叫び声に振り返った魔物達が此方を睨み付ける。

私は臆することなく、仁王立ちでそれを睨み返した。


「ティラ!ケラー!」


妾の指示に従い、ドラゴン達が敵に突っ込んだ。

2体は勢いよく頭突きをかまし、魔物を盛大に吹き飛ばす。

レベルが上がっているせいか、明らかにこの森に来た頃よりパワーが上がっている。


「ぐぅおおおおお!」


頭突きの難を逃れた上級モンスターワイルドベアーが、此方へと突っ込んで来る。

だが妾は腕組みしたまま微動だにしない。


何故なら、妾には頼もしすぎる護衛パーティーメンバーが付いているからだ。


妾の目の前に突然白い刃が姿を現し、それは無慈悲に突進して来た魔物を縦に引き裂いた。


「成敗!」


二つに分かれた魔物が勢いで妾を通り過ぎ、背後で倒れる。

倒したのはポーチだが、きっと冒険者達には妾が早業で真っ二つにしたように見えた筈だ。


これぞ手柄横取りカッコつけ作戦!


見るとティラとケラーも敵に止めを刺し、さっそくお食事タイムに入っていた。

本当によく食べる奴らである。


「お主ら大丈夫か?」


妾は冒険者達に声を掛ける。

怪我人の傷はそれ程深くはなさそうに見えた。


「すまない、助かったよ。俺はこのパーティー、疾風迅雷のリーダーのカーズだ」


「童はチーレムというパーティー所属の……天才錬金少女じゃ!!」


「チーレム?確か最近Aランク入りしたパーティーの?」


「うむ、そのチーレムじゃ!」


チーレムというパーティー名は、リーダーであるカオスの考えたものだ。

へんてこな名前なのでどういう由来か聞いてみたが、カオスは困った様にはにかむだけで答えてはくれなかった。


きっと容易く語る事の出来ない、深い事情があるのだろう。


いつの日か彼の信頼を勝ち取り。

その事を語って貰える様、妾は努力していくつもりだ。


「天才錬金少女って事は、ひょっとして君があのパマソー・グレンなのかい?」


「誰じゃそれは?」


「あ、違ったのか。すまない。錬金術師は珍しい職業だから、てっきりそうなのかと思って」


「そ奴は有名なのか?」


天才錬金少女と名乗った自分と勘違いする程だ。

きっと優秀な錬金術師なのだろう。


「ああ、天才らしい。結構有名なんだが、君は知らないのかい?」


有名な天才錬金術師か……


ふふ、妾はみつけたのかもしれない。


悪の天才錬金少女宿命のライバルを!


まあ悪かどうかはまだ確定していないが、このタイミングで出現したフラグがたったのだ。

きっと悪寄りに違いない。


「悪いがその者の情報を教えてくれんか?」


「ああ、それ位お安い御用さ」


私は早速その情報を持ち帰り。

カオスと作戦会議を立てるのだった。

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