第76話 ヴラド・ヴァレス
「このヴラド・ヴァレスを敵に回した事、あの世で後悔するがいい」
ヴラドの周りに風が起こり、奴の羽織るマントがたなびいた。
風は突風となり渦巻く。
その上昇気流に乗り、奴は上空高く飛び上がる。
「さあ、愚か者に滅びを」
月光を背に受け、天に手を掲げる神々しいその姿。
まるで映画のワンシーンの様だ。
美貌の持ち主にのみ許されたその所業。
ムカつくので顔面を叩き潰してやると心に誓う。
鬼つよ不細工……いや、フツメンの嫉妬舐めんなよ。
「魔王様!お気を付けください!あれは!!」
ヴラドの掲げる手の先に炎が生まれる。
炎は渦を巻き、巨大な火球へと姿を変えていく。
――
超高熱の爆炎が全てを焼き尽くす最上位破壊魔法だ。
俺もリッチ時代はちょこちょこ使ってはいたが……
「デカいな」
火球の直径は、優に10メートルを超えるレベルにまで成長していた。
俺が使っていた時は精々1メートルぐらいだった事を考えると、その約十倍、もしくはそれ以上の破壊力という事になる。
流石はヴァンパイアと言った所か。
「さあ、死ぬ準備は出来たか?」
上空の火球が赤々とヴラドを照らす。
その姿は丸で全身血に塗れている様だ。
いや、実際血に塗れているのだろう。
奴の手は真っ赤に。
「喜ぶがいい。我が最強の一撃を受ける栄誉に」
奴の顔は勝ち誇っていた。
その必殺の一撃で、一気に決着を付けるつもりの様だ。
なら、へし折ってやるとしよう。
その高慢な鼻を。
「どうするべ?あれを喰らうと流石に痛いべよ?」
「問題ない」
丁度いい機会だ。
覚えたばかりの新しいスキルを使う事にする。
あの晩、アラクネを倒した事で俺のレベルは62に上がっている。
そしてその際、俺は新しいスキルを習得していた。
本来最上級クラスのスキルは、進化した時点でその全てが手に入るものだ。
だがカオスは違う。
レベルが上がる事で、更なるスキルの習得。
伸びしろが残されていた。
つまりカオスというクラスは最強でありながら、更なる進化を遂げる可能性を秘めていると言う事だ。
これこそ正に真の最強と言えよう。
……まあ実際は乳神様がスキルを詰め込み過ぎたせいで、習得数制限に引っ掛かっただけなんだけどな。
困ったお乳様だ。
「燃え尽きよ!」
ヴラドが手を振り下ろす。
その動きに合わせて、巨大な火球が真っすぐ此方に飛んでくる。
俺は地面を軽く蹴って飛び上がり、そして迫るその火球を片手で受け止めた。
「
新スキル
魔法を魔力へと還元し、それを吸収するスキルである。
魔法に対する絶対的なアドバンテージを有するこのスキルは、ヴラドの放った巨大な火球を一瞬にして
「ば……ばかな……」
何が起こったのか理解できなかったのだろう。
ヴラドは間抜け面で俺を見つめる。
「隙だらけだ!」
当然その隙を見逃してやる程俺は甘くない。
羽根を強く羽搏かせ、一気に間合いを詰めて拳を振るう。
だがギリギリの所で奴に躱されてしまった。
「ちっ」
だが俺は躱された拳を開け、そのまま奴の肩をがっちりと掴んでやった。
これでちょこまかと逃げ回る事は出来ないだろう。
「は、放せ!」
暴れる奴の爪が俺の胸元を抉る。
だが俺は気にも止めない。
この程度なら瞬時に回復するからだ。
「ああ、直ぐに放してやるさ」
――顔面に致命の一発を入れたらな。
俺は暴れるヴラドに向かって拳を振り上げた。
肩を掴んだ時点で致命は発生している。
後はその綺麗な顔に俺の拳を叩き込むだけだ。
「くそがぁ!」
抵抗する様に、ヴラドが俺の目に爪を突き立てた。
光が失われ、何も見えなくなる。
だがこれも全く問題ない。
直ぐに回復するし、何より気配から相手の動きは正確に把握している。
奴の顔面をぶん殴るのに、視力は別に必要ないのだ。
「カオスパンチ!!」
俺の拳を受けて、ヴラドが盛大に吹っ飛んだ。
派手な崩壊音が響く。
視界が潰れているのではっきりしないが、恐らく要塞の壁面に奴が突っ込んだ音だろう。
「ふむ……結構やるなぁ」
視界が戻って奴の姿を捉えた俺は、感心して声を上げる。
俺の拳は奴の顔面を粉砕するはずだった。
だがヴラドは咄嗟にそれを左手でガードして見せたのだ。
だが――
「ぐうぅぅ……おのれぇ……許さんぞぉ……」
埋もれた壁面から瓦礫ごと飛び出したヴラドが、苦し気に怨嗟の声を上げる。
その左手からは煙が上がり、ボロボロと肉が崩れ落ちて骨がむき出しになっていた。
――腕でガードをすれば、その腕を破壊する。
それが致命攻撃だ。
「勝負あったな」
奴の左腕はもう使い物にはならない。
逆に奴から負った俺の傷は、もう既に完全回復している。
その差は明白だ。
「因みに、命乞いはもう受け付けないぞ」
「命乞いだとぉ!このヴラド・ヴァレス様を舐めるな!!」
奴が右手で懐から何かを取り出した。
真っ黒な液体の入った小瓶だ。
俺は咄嗟にカオス・チェックでそれが何なのかを確認する。
――デス・ポーション。
生者が口にすれば即座に死に至る危険な猛毒だ。
だがそれは生者に限っての話。
死者が口にする事で、それは強力な力となる。
「ぬぅぅぅん!」
それを口にした途端。
骨だけになっていた奴の左腕が、まるで時間を巻き戻すかの様に修復していく。
便利なアイテムだ。
しかし考える。
半分アンデッドの自分が口にしたらどうなるのだろうかと。
半分回復して半分ダメージを受けるのだろうか?
ま、どうでもいい事ではあるが。
「しねぇ!」
ヴラドが腕を翳し、魔法を再び発動させる。
どうやら奴には学習能力が無いらしい。
火球のサイズは先程の半分程。
どうやらデスポーションではMPは回復しない様だ。
俺は再び火球を受け止め、吸収する。
「ははは!隙ありだぞ!」
だがその瞬間、奴の拳が俺の顔面を勢いよく捉えた。
魔法は囮で、受け止めた隙を狙って俺を攻撃する作戦だった様だ。
突進の勢いが乗った拳は重く、今度は俺が壁面へと吹き飛ばされる。
「てててて」
結構なダメージを貰ってしまったが、まあ直ぐに回復するレベルだ。
問題ない。
「やってくれるじゃねぇか」
俺は掌を奴に向け、得意の魔法を発動させる。
カオスライトニングだ。
強烈な雷光がヴラドを襲う。
だが少々距離があり過ぎた様だ。
攻撃は寸でで躱され、掠めただけで終わってしまう。
だがそれで十分だった。
「ぐおぉぉぉ」
カオスライトニングはフルパワーで放っている。
致命が乗っている以上、掠っただけでもダメージは十分通るだろう。
「はぁ……はぁ……くそ!」
苦し気に喘ぐヴラドが、再び懐から瓶を取り出しそれを口にしようとする。
勿論それを黙って見逃してやれ程俺はお人よしではない。
「カオス・ライトニング!」
駄目押しの一撃。
雷光は今度こそ奴に直撃し、咄嗟に上昇して躱そうとした奴の下半身を消し飛ばした。
「――――」
声なき悲鳴を上げ、ヴラドの上半身が落ちていく。
地面に激突した落下の衝撃から、それはボールの様に数度跳ねてから地面に転がった。
「流石にバンパイアは頑丈だな」
俺は奴の傍に降り立つ。
下半身を吹き飛ばされ、地面に激突して土埃まみれになりながらもヴラドはまだ生きていた。
「こ、ころせぇ!奴をころせぇ!」
地面に転がったまま、ヴラドは配下の魔物達に手を伸ばして攻撃を指示する。
だがその声に応える者はいない。
「な、何をしている!早く奴を殺せ!!」
魔物が奉じるのは強さだ。
無様に地面に転がる弱者に従う者などいはしない。
「終わりだな 」
転がる奴の頭上に足を上げ。
俺はその頭部に向かって、無慈悲に足を下ろした。
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