第66話 支持

あっという間に大量の魔物に囲まれた。


虎や熊。

それに岩山の様な大きさのウサギに、なんだか良くわからない目玉塗れのスライム等々。

まるで多種多様な魔物の見本市の様な有様だ。


敵は俺達をぐるりと取り囲んだまま動いてこない。

まるで何かを待っているかの様に、じっと此方の様子を伺っている。


実はこういう状況に、打ってつけのスキルが俺にはあった。

カオス・フィールド。

半径数百メートルに渡って負のオーラを放出スキルだ。


所謂、持続ダメージスキルで。

ゲーム等でdot(ドット・ダメージ・オンタイム)やスリップダメージと言われる類の攻撃の範囲型にあたる物だ。


本来これ自体の威力はそれ程大した物では無いのだが、カオスのパッシブスキルの効果で、俺の攻撃には全て致命弱点が付与される。

そのため破壊力が跳ね上がり、耐久力の高い上級の魔物ですら物の数十秒で昇天させる威力へと昇華されれていた。


俺がカオス・フィールドを使えば、周囲を取り囲む魔物達を一歩も動く事無く蹂躙する事も可能だろう。


だがこのスキルには一つだけ大きな欠点があった。

それは敵味方の識別機能がない点である。

つまり、範囲内に居る味方にもダメージを与えてしまう残念仕様なのだ。


ダメージは固定ではない――相手の抵抗(魔力)で変動する――為、ポーチや聖王女クラスなら耐えられるだろうが、他の奴らは間違いなく魔物と仲良くあの世行きになってしまうだろう。

別に親衛隊の奴ら等どうでもいいのだが、バニラやアッシュも居るので今回は止めておく事にする。


以上、使えないスキル説明終わり!


輪を形作って包囲していた魔物の一部が、まるで道を開けるかの様に大きく動いた。

そこに仮面の集団が姿を現す。


彼らは闇夜に紛れるかの様な黒のタキシードに、同色のマントを身に着け、その顔には赤いマスクを被っていた。

人型ではあるが、気配から魔物である事は疑い様がない。


更にそいつらが道を開け、今度は全身真っ白にコーディネートされた――身に着けている物は色以外他の奴とほぼ同じ――男と、薄汚いローブを身に纏った老婆が姿を現す。

恐らくこの二人が最上級の魔物なのだろう。


しかし全員見事に顔を隠しているな。

ひょっとして、顔を隠さなければならない程不細工の集団なのだろうか?

ならきっと異性にはモテない事だろう。


不細工ざまぁ。


「貴様達は何者だ!魔物領の物か!? 」


聖王女の声が周囲に轟く。

体がごついだけあって、彼女の声量は桁違いだ。


ポーチの方を見ると、迷惑そうな視線を王女に向けていた。

彼女は耳が良いので、急に怒鳴られて五月蠅かったのだろう。


「答える必要は無い」


代表っぽい白尽くめの男が口を開く。

これから此方を皆殺しにしようとしている割に、ケチ臭い返答だ。

悪役らしくペラペラ自慢げに喋ればいいのに。


「答えぬか!ならば容赦はせん!」


「容赦しないだと……くっくっく」


男達が王女の言葉を馬鹿にしたかの様に忍び笑う。

どうやら自分達が成敗される可能性を、欠片も考えてはいない様だ。

まあ確かに、俺やポーチがいなければ彼我の戦力差は圧倒的に見えるので、そう思っていても仕方がない事ではあるが。


「私を愚弄する気か」


王女様が怖い顔で腰の剣を抜き放ち、一歩前に出る。

だがその様子を見ても、彼らは微動だにしない。

完全に此方を馬鹿にしている様だ。


言っておくけど、他は兎も角聖王女だけはマジで強いぞ。

上級の魔物程度の数体なら余裕で相手に出来る程に。


「くくく。一国の王女自ら先陣を切ろうとは、愚かな事だ」


「黙れ!責を負う者が前に出て道を示すのが、本来あるべき貴人の姿!陰でこそこそ隠れる様な者に、神の名の元民草の上に立つ資格などない!」


聖人として前に出て道を示すか。

王として背後で的確に指示を出すか。

是非の分かれる考えだ。


だが俺は聖王女の考えを支持する。


何故なら胸が大きいから!

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