第64話 獅子身中の虫

「めっちゃ罠くせぇな」


「まあね」


バニラが俺の言葉に苦笑いする。

彼女は顔立ちが可愛らしいので、髪型が普通ならモテそうなだけにモヒカンなのが惜しい。

折角の巨乳も、モヒカンでは魅力半減だ。


まあ揉ましてくれるんなら100点あげてもいいけど。


「それで?どうするつもりなんだ」


哭死鳥の幹部が集まる集会が明日の深夜、西にある遺跡で行われるらしい。

情報の出所は聖都で官警がふんづかまえた不審者だそうだ。


因みにそいつは聞いてもいない哭死鳥の情報をペラペラ喋るだけ喋って――その後自害したらしい。


なんで喋るだけ喋って自害すんだよ。

突っ込みどころが満載過ぎて笑いも出てこねぇ。

間違いなく罠と考えていいだろう。


「勿論突入するわ」


まあそうなるか。

罠だろうが何だろうが、そいつらは情報源になり得るからな。

多少のリスクはあっても、押さえる価値はある。

敵もその事を理解しているからこそ、バレバレの雑な罠を仕掛けたのだろう。


「突入は王女様の親衛隊20名と、私と兄で行う予定よ。そこにあなた達2人も加わって欲しいの」


胸を揉ましてくれるのなら、と。

そう交渉したい所ではあるが、ポーチがじっと俺の顔を見ている。

そんな純真な眼差しで見つめられたら、打診し辛くてしょうがない。


「別にいいぜ」


「ありがとう。あなた達がいてくれれば100人力よ」


なんとかポーチにバレず、交渉する方法が無いかと考える。

だが小声で耳打したとしても、彼女は超耳が良いから間違いなく聞こえてしまうだろう。

紙やペンの類も無いし、どうやら諦めるしかなさそうだ。


無念。


「今回の作戦は聖王女様が直接指揮を執られるけど、あなた達は自分の判断で動いてくれればいいわ」


「王女様も来るのか?」


「ええ」


普通、最前線に一国のお姫様が立つ事などない。

流石は脳筋姫だ。

というよりも――


「姫さんと親衛隊だけって事は」


「姫様が独自で動かれる形になるわ。下手に国に報告すると、横槍が入りかねないから」


哭死鳥は裏家業を生業とする暗殺集団だ。

そんな奴らが聖王国の首都に堂々と本拠地を構えていられるのは、裏で政府筋と繋がっていると考えて間違いない。

だからあえて報告を上げず、聖王女は独自に動く事を決めたのだろう。


とは言え、今回は明かに哭死鳥からの招待状なので、そんな横槍は入らない気もするが。


「一応念のためよ」


俺の考えている事が分かったのか、バニラは言葉を付け加える。


「まあこんな無茶が効くのも、あなた達の出鱈目な強さがあるからこそね」


相手側の規模を考えれば、本来なら一軍を送ってもおかしくはない。

それを少数で済ませるのだ。

聖王女の腕を考えれば、親衛隊の練度も相当な物なのだろうとは想像できるが、まず俺達の力ありきなのは間違いないだろう。


これだけ頼られているのだ、益々持ってパイ揉み券を頂きたいところである。

せめてつんつんぐらいさせてくれんかな?


まあだが仮に、聖王女がその褒美を用意してくれたとしても――


チラリとポーチを見ると、じーっとこっちを見ていた。

彼女は何処に行くにも俺について来る。


――流石に、彼女の前でモミモミするわけにもいかんからな。


ポーチを何とか巻かなければ、報酬を受け取るのは難しいだろう。

まさか彼女が俺にとって獅子身中の虫となる日がこようとは。

世の中何があるか分からない物だ。

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