第55話 モヒカン

「ここらじゃ見ない顔だな。よそ者か?」


細マッチョ。

赤毛のモヒカンに、頬には大きな刀傷。


0点!


俺は男を無視してギルドを後にする。

折角受付嬢がバインバインでハッピー気分だったというのに、むさい男にそれをぶち壊されたのではたまらない。


だが――


「こらこら待て待て」


背後から肩を掴まれてしまう。

彼は死にたいのかな?


「折角人がここでのルールを教えてやろうってのに、無視すんじゃねぇよ」


めんど臭い奴だ。

取り敢えずギルド内で問題を起こすのはあれなので、外に連れ出して一発かましてやるとしよう。

そうすれば二度と俺に話しかけて来る事は無いだろう。


いや、待てよ。


俺はある事に気づき、振り返って男の顔を繁々と見つめる。

目つきが悪く、お世辞にも良識を兼ね備えた一般人には見えない。

何処からどう見ても筋者だ。


間違いない。

こいつは哭死鳥だ。


俺はそう確信する。


「俺に話があるのか?」


「応よ。この国は他所と違って独特だからな。人生の先輩として、俺がアドバイスをくれてやる」


白々しい嘘だ。

まあ向こうから早々に接触してくれたのだ。

適当な所に連れ込んで話し合いごうもんするとしよう。


「ああ、よろしく頼むよ」


俺は幻術で姿を消しているポーチへと目配せする。

彼女には姿を消してついて来るよう命じてあった。


これは暗殺者の襲撃を警戒しての事――――などと言う事は全く無く。


姿を消して貰っているのは、彼女が目立つためだ。

その美貌故、街を歩くだけで道行く人々の注目を集めてしまう。


勿論それ自体に大きな弊害はない。

ただ見られるだけだからな。

実際、ダリア王国内では姿を消す様な真似をさせてはいなかった。


では何故かというと。

兎に角凄いのだ――勧誘という名のナンパが。


それこそ50メートルに一度は神がどうたらと声を掛けられる。

冗談抜きで猛烈にウザかった。

性王国と名を検めるべきだと本気で思える程に。


全く。

人のガールフレンド(仮)に気安く声かけてんじゃねぇよ。


「おめぇ、ランクはいくつだ?」


モヒカンが馴れ馴れしく俺の肩に手を回す。

その際、フローラルな香りが鼻についた。


なんでこんないい匂いしてるんだ?

モヒカンの癖に。


「B級だ」


「B級ぅ?その若さでか?」


若い?

俺が死んだのは22の時だ。

こちの世界での時間も合わせれば――死後のゾンビ期間を年齢としてカウントするならば――もう24なので、別段そこまで若くはないのだが……

それだけ俺が若々しいという事か。


まあ実際は半ゾンビだから、若々しいどころか半分腐ってるんだけどな。


「人は見かけによらねぇもんだ。まあいい、俺はモーヒ・カーン。A級冒険者だ」


そっちこそ、そのやられ役の雑魚チンピラっぽいなりと名前でA級かよ。

本当に人は見かけによらないものだ。


「ここで立ち話もなんだ。ギルドの向かいに俺の行きつけの店がある。そこでじっくり話をっ――」


話の最中に、突然モーヒが吹き飛ぶ。

顔面から床に突っ込み、けつを上げて尺取虫の様に床に這いつくばる姿は、とてもA級冒険者の姿には見えない。


「何やってんだ馬鹿兄貴!」


背後から聞こえた声に振り返ると、そこには巨乳びじょが立っていた。


モヒカンの。


それもソフトではなくバリバリのハードの奴が。

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