第49話 銀妖剣

「父上。ここは私にお任せください」


「んー、大丈夫?」


相手は明らかな格下だ。

まあ大丈夫だとは思うが……


「問題ありません」


ポーチが一歩前に出る。

全方位から囲まれている状態では、その行動にあまり意味はない気もするが……

まあ「やってやるぜ!」的な彼女なりの心の表れなのだろう。


「わかった、頼むよ」


「このポーチ、必ずや父上のご期待に応えて見せます!」


ポーチが右手を肩と水平に真っすぐに伸ばす。

するとその手に、美しく輝く銀の剣が突如姿を現した。

彼女の骨を素材に、スキルによって生み出さた魔法の剣だ。


その名も銀妖剣――俺が命名。


取り囲んでいる哭死鳥の面々が身構える。

その剣に込められた力を肌で感じ取ったのだろう。


まあ単純な切れ味だけなら、俺がこの前売り払った剣と大差ない。

だがこの武器には――


「ふん!こけ脅しだ!相手はたったの二人!行くぞ!」


学者――改め、哭死鳥のおっさんが号令をかける。

どうやらこいつが一番偉い奴くさい。

情報源としては、こいつが一番有用だろう。


ポーチを見ると、視線で返事が返って来た。

どうやら此方の意図を汲み取り、その辺りは了解してくれている様だ。


男達が包囲の輪を縮めて来る。

だがポーチは動かない。

恐らくもう準備は完了しているのだろう。


いつ飛び掛かられてもおかしくはない距離。

そこまで詰められて、ポーチはやっと動く。

彼女は素早く銀妖剣を逆手に持ち替え、その切っ先を地面へと突き刺した。


――シャーン。


地面から、鈴の音の様な音が辺りに響いた。

それを合図にしたかの様に、俺達を取り囲んでいた哭死鳥が動く。

但しその凶刃は此方にではなく、自分達自身に向けられていた。


「くそっ!?」


「死ねぇ!」


「があぁ!!」


剣と剣がぶつかり合い。

怒声が飛び交う。

周囲を取り囲んだ男達は手近な相手に切りかかり、突如仲間同士殺し合いを始めだした。


これが銀妖剣の力。

幻術だ。


その刀身から放たれる銀色の輝きは、対象の認識を狂わせる。

彼らには最早敵味方の認識など無く、目に映るその全てが破壊の対象となっていた。


正直幻覚系の能力を持ち合わせていない身とすれば、この力は羨ましい限りだった。


幻覚さえ扱えれば、イケメンを装ってナンパだって可能だったろうに……

だからと言って、流石にポーチにお願いするのはあれだからなぁ……


最後の1人が倒れ、場が鎮まる。

デスマッチによる全滅エンドだ。


まあ正確には、1人だけ無傷で生き残っている訳だが。


リーダーと思しきおっさんだ。

ポーチはこいつには幻覚をかけていない。


他の奴らに狙われなかったのは、幻覚を見せた奴らの目には映らない様――俺達も多分映って無かった――調整してあったからだろう。


「何故だ……」


おっさんは自分達に何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くしていた。

自分達がやられるなんて、ましてやそれが同士討ちだ等と夢にも思わなかった事だろう。


「ベーア達の事が気になるな。ポーチは先に帰って、確認してきてくれ」


「父上。彼女ならば何が起きても問題ないと思いますが?」


「まあベーアだけならそうだけど、他の2人の事もある。頼むよ」


「分かりました」


了承を得たので俺はポーチに手を向け、魔法を発動させる。


転移魔法カオス・テレポート


ポーチの周りに黒い魔法陣が現れ、ドス黒い負のオーラが彼女を包み込んだ。

ぱっと見、攻撃系か呪い系の魔法にしか見えないこれだが、実は無害な転移魔法だったりする。


やがてオーラは魔法陣の内側を満たし、どす黒い球形へと変わる。

その玉に罅が入り、音もなく破裂した後には既にポーチの姿は見当たらなかった。


「さて」


此処からはおっさんとの話し合いだ。

具体的には歯を折ったり、指をへし折ったりする鞭と。

ダメージを瞬時に回復する飴。

この二つを使ってのコミュニケーションになる。


分かり易く言うと拷問。


格好良く火の粉を払うのと違って、こういうのは残酷に映る。

当然ポーチに俺のそんな姿を見せるわけには行かない。

そんなシーン見られたら、好感度下がっちゃうかもしれないから。


だから適当な理由で彼女だけ先に帰って貰ったのだ。


「取り合えず変身を解くか」


人の姿より、カオスの姿の方が恐怖を煽れる。

そう判断して、俺は変身を解いた。


「ひっ」


俺の姿が化け物の様に変わると、それまで呆然としていたおっさんが悲鳴を上げてその場から逃げ出そうとする。

が、勿論逃がす訳もなく。


吸着魔法カオス・ダイソン


放った透明な魔法の玉が、おっさんの背中に吸い込まれた。

次の瞬間おっさんの前へ進もうとする動きが止まり、逆に何かに無理やり吸い寄せられるかの様に背を向けたまま、ずりずりと此方へと後退して来た。


「うわぁぁぁぁぁ!」


おっさんは両手を付き、四つん這いになって地面に爪を立てた。

だがその程度で吸着魔法カオス・ダイソンの吸引の力をを止める事は不可能だ。

ガリガリと地面に爪痕を残し、やがておっさんは俺の足元まで吸い寄せられてきた。


俺はその首根っこをひっ捕まえ、にっこりと微笑んだ。


「さて、楽しくおしゃべりといこう。素直に話してくれると楽だぞ」


悪人には容赦しない。

それが俺の流儀だ。

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