第48話 待ち伏せ

「父上。進む方向から人間の匂いがします。それも大勢の」


ポーチが俺の横に並び、耳打ちする。


「遺跡にか?」


その言葉を聞いて眉を顰めた。


俺達は今、冒険者として仕事クエストの最中である。

内容は依頼人である学者のおっさんを遺跡に連れていき、調査中に寄って来る魔物などから守るという物だ。

まあ所謂、護衛クエストという事になる。


護衛の仕事はBランク以上のパーティーが条件であり、おっさんの指名によって――先日Bランクに上がった――俺達はこの仕事を引き受けていた。


俺達を指名した理由を聞いた所、破竹の勢いで伸し上がっている若手?とのパイプを作る――顔なじみになっておけば、優先して仕事を受けて貰えるため――事と。

メンバーの数が少ないため、支払いが安く済むから――人数が少ない分お手頃な価格になる――という理由からだ。


まあ学者は余程大きなパトロンでも付いていない限り、資金にはあまり余裕がないイメージがある。

Bクラスになり立てで、小数の俺達が条件的に都合が良かったのだろう。


と、納得していたのだが……


今向かっている遺跡は人里離れた場所にある。

普通に考えて、そんな場所に人が大勢いる訳がない。

偶々偶然、冒険者の大規模パーティーが行う何らかの作戦とかち合った可能性が無いとは言えないが、常識的に考えてその可能性は低いだろう。


となると、考えられるのは待ち伏せという事になる訳だが。

その心当たり……無くはない。


「警戒だけしといてくれ」


「心得た」


「どうかされましたか?」


「ああいや、彼女が催してしまったらしくて」


俺とポーチがひそひそやっていたのを、怪訝そうにおっさんは聞いてくる。

それを伝家の宝刀、お花摘みでバッサリと切り伏せた。

もし待ち伏せだったとしたら、このおっさんもグルの可能性が高い。


何故なら、待ち伏せってのは相手の移動ルートや目標地点を知ってなければ出来ない事だからだ。

つまり雇い主であるこのおっさんは、すこぶる怪しいという訳である。


「では、どこかで休憩を……」


「ああ、大丈夫ですよ。遺跡ももう近いみたいですし、そこまでは彼女に我慢してもらいますから」


「そうですか……」


おっさんは胡散臭げに此方を見るが、俺は気にせず遺跡に向かって足を進める。

鬱蒼とした森の中を進んでいるため、視界は悪い。

偶に密集した枝葉が俺達の行く手を阻んで来るが、回り道するのも面倒くさいので、手にした安物の剣で適当にそれらを切り払って俺は真っすぐに進む。


暫く進むと、開けた岩壁に辿り着く。

それにそって少し進むと、岩壁の切れ間に開けた空間が広がっていた。


「あそこですか」


「ええ、間違いありません」


そこには大きな古い神殿の様な建物が立っており、目的地はどうやら此処で間違いない様だ。


ポーチの方を見ると、彼女は小さく頷く。

匂いの方もここで間違いないっぽい。

まあここまでくると、彼女に確認するまでもなく俺にもはっきりと人間の気配が感じられているが。


それは遺跡の中で何かをしている様な感じではなく、明らかに気配を殺して潜んでいる息遣いだ。


「で、哭死鳥が俺に何の用だ?」


遺跡の入り口前で問いかける。

俺を狙う可能性があるとすれば、フェニックス家か哭死鳥のどちらかだろう。

態々こんな人気のない所に呼び出すのは、堂々と人前で行動できない哭死鳥の方だろうと思い、鎌をかけてみた。


「何の話ですか?私は只の研究者ですよ」


「じゃあ何で哭死鳥の事を知っているんだ?」


普通、哭死鳥と言われただけでは何の事かさっぱりわからないだろう。

何かの名前か?位にしか思わない筈。

だがおっさんは、その問いに研究者としょくぎょうで返した。

それは哭死鳥が暗殺者と知っているからこその返しだ。


自身の失言に気づいたのか、おっさんの表情が険しくなる。


これで確信できた。

黒だとは思っていたが、流石に確信も無く殺すのは躊躇われる――万一違ったらあれだし。

だがこれで心置きなくぶち殺せるという物だ。


「いつから気づいていた?」


「ん?最初っからだぜ。態々ここまで来たのは、色々と聞きたい事があったからだ。街中じゃ聞き出しにくいだろ? 」


気付いたのはついさっきだが、最初っから知ってた体で話を進める。

何故ならその方がかっこいいと思ったからだ。

そしてその作戦は見事に功を奏した。


ポーチが「流石父上」と感嘆の声を上げ、俺を尊敬の眼差しで見つめてくる。

簡単に騙されてくれる彼女は、正にチョロインの鏡と言えるだろう。

その調子でバンバン俺を尊敬してくれていいぞ。


「ふん、のこのこ付いて来た事を後悔するがいい」


おっさんが手を上げると遺跡に潜んでいた賊共が飛び出し、瞬く間に俺達を取り囲む。

その数約16人。

全員黒尽くめに衣装を揃え、手にしている獲物もシミターの様な刀で統一されていた。


その姿は正に量産雑魚といった様相だ


「抵抗するなよ。すればお前の可愛い家族がどうなるか分かっているだろうな?」


可愛い家族?

何言ってんだこいつ?


「昨晩、我らの手の物がお前の屋敷を襲っている。この意味が分かるな?」


言われてニーア達の事だと気づく。

けどまあ……


「それ、確実に失敗してるぞ?」


全員のレベルを確認する。

大体30前後だ。

仮に同じ人数が相手だったとしても、今のベーアが手こずるとは思えない。


なにせ彼女は俺に隠れてこっそりと――バレバレだが――レベル上げをしているからな。


今の彼女は変異前よりも確実に強くなっている。

30程度の人間じゃ、戦いにもならないだろう。


「戯言を」


「信じる信じないは自由だ。好きにすればいいさ」


俺は拳を構えた。

今後の事も考え、2-3人残して殲滅せんめつするとするとしよう。

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